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ミトコンドリア:ヒトミトコンドリアDNAの母性遺伝の分子基盤

Nature Genetics 55, 10 doi: 10.1038/s41588-023-01505-9

ミトコンドリアDNA(mtDNA)の片親遺伝は、進化の過程で維持されてきた、ほぼ全ての真核生物に見られる現象である。ヒトを含む多くの生物種では、受精の際に精子のミトコンドリアも卵子に持ち込まれる。父方のmtDNAが継承されるのを防ぐ機序を説明する仮説として、精子ミトコンドリアのユビキチン化と、それに続くマイトファジーが提案されている。しかし、父方のmtDNA排除を引き起こす原因となる機序は、明確には証明されていない。我々は、ヒト精子のミトコンドリアには、無傷のmtDNAは存在せず、ミトコンドリア転写因子A(TFAM)を欠いていることを発見した。TFAMは、mtDNAの保護、維持、転写に必要な主要な核様体タンパク質である。精子形成の際、精原細胞はTFAMのアイソフォームを発現し、mtDNAのプレ配列を保持しているが、通常これはミトコンドリアへ持ち込まれる前に除去される。すなわち、このプレ配列はリン酸化を受け、それによりミトコンドリアへ持ち込まれるのが阻害され、一方でTFAMは精子の核へと誘導される。精原細胞のミトコンドリアから精子核へのTFAMの再局在は、mtDNAの除去に直接関係しており、ヒトでの母性遺伝の説明となる。

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