Review Article
HIV感染の治療および治癒を目的としたエンベロープ特異的抗体ならびに抗体由来の分子
Nature Reviews Drug Discovery 15, 12 doi: 10.1038/nrd.2016.173
HIV-1(ヒト免疫不全ウイルス1型)は宿主のクロマチンに組み込まれ、その個体が有する免疫細胞プールにおいて転写が休止した状態にとどまることができるレトロウイルスである。この特徴によって、HIV-1は宿主の免疫応答も抗レトロウイルス薬もたくみにかわすことができ、持続感染を引き起こす。組み込まれたプロウイルスの遺伝子発現が再び活性化すると、HIV-1のエンベロープ(HIV-1 Env)の糖タンパク質が感染細胞の表面に発現し、潜伏感染した細胞がHIV-1 Env特異的モノクローナル抗体(mAb)の標的に変わる。HIV-1 Env特異的mAbは免疫エフェクター細胞を引き込んで、生産的に感染したCD4+ T細胞を破壊して子孫ウイルスの伝播を制限することができる。抗体工学における最近の技術革新によって、例えば二重の特異性を持ったDART(dual-affinity re-targeting)分子の他、HIV-1 Envを識別して細胞傷害性エフェクター細胞を動員し、HIV-1に潜伏感染したCD4+ T細胞を殺すことができる二重・三重の特異性を持った抗体設計など、新規な免疫療法を生み出している。本総説では、HIV-1感染の治癒という目標をもって設計された、こうした免疫療法について概説する。