HTLV-1関連脊髄症/熱帯性痙性麻痺
山野 嘉久
掲載
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)関連脊髄症/熱帯性痙性麻痺(HAM/TSP)は、下肢の筋力低下または麻痺、腰痛および尿路症状の原因となる中枢神経系の進行性疾患である。HAM/TSPが最初に報告されたのは19世紀のジャマイカであるが、この症状の病因がHTLV-1レトロウイルスによる感染であることが判明したのは1980年代に入ってからである。… 続き
―― 今回のPrimer「HTLV-1関連脊髄症/熱帯性痙性麻痺」の内容について、注目すべき点、新たに分かったこと。
今回のPrimerでは、これまでのHTLV-1関連脊髄症(HAM)の病態研究で判明した発症機構を解説しています。特に、最新の分子レベルでの発症機構に基づいた新規治療薬の作用点を記載した点や、今後の重要なリサーチ・クエスチョンを整理した点に注目すべきです。
―― 同Primerについて、日本と海外の差異について押さえておくべきこと。
HAMを専門とした海外と日本の研究者が合意できる内容でまとめてあり、バランスの取れたHAMの総説が完成しました。
―― 同Primerについて、専門の異なる研究者・臨床医にどのように役立ちますか? 逆から見て、ご専門外のPrimerは、先生にどのように役立ちましたか?
疫学、病理病態、発症機序、診断、治療、QOL、研究の課題などが整理されており、最先端の情報を総合的に把握できるメリットがあります。
―― 臨床の現場や研究活動、教育指導などの場面では、どのような活用方法がありますか?
基礎研究の面では、病態研究の方向性を垣間見ることができ、臨床研究の面では、医薬品開発に際しての当局への参考資料として活用できるため、HAMの現状と今後の課題に関する情報を共有することができます。また臨床の現場では、世界の専門家がどのような治療を実施しているかを知ることができます。教育面では、一般的な教科書と比較して、情報が最新かつ豊富ですので、本疾患を学ぶツールとして最も重要な位置付けになるでしょう。
―― 先生ご自身の活用方法は?
最近、医薬品開発で当局と交渉を進めており、その際の重要な参考文献として活用しました。
Nature Reviews Disease Primers 掲載論文
HTLV-1関連脊髄症/熱帯性痙性麻痺
HTLV-1-associated myelopathy/tropical spastic paraparesis
Nature Reviews Disease Primers Article number: 15044 (2015) doi:10.1038/nrdp.2015.44
Author Profile
山野 嘉久
聖マリアンナ医科大学 難病治療研究センター 病因・病態解析部門 部門長/准教授
HTLV-1感染症やHTLV-1関連脊髄症(HAM)の研究を中心に行っています。特にHAMやHTLV-1感染者を対象とした専門外来を開設し、臨床に根差した研究の実践を心がけています。具体的な内容は、全国的なHAM患者レジストリ「HAMねっと」の運営およびHAMの疫学研究、患者検体を活用したHAMの新規バイオマーカーの探索、HTLV-1感染細胞に着目したHAMの分子病態解析や治療標的分子の解明、HAMの新規検査法の開発、新規医薬品の医師主導治験など、基礎研究から実用化研究まで、HAMにかかわる全般を幅広く取り組んでいます。
1993年 | 鹿児島大学医学部卒業 |
1997年 | 鹿児島大学大学院医学研究科内科学第三修了(医学博士) |
2000年 | 米国 NIH National Institute of Health(NIH)留学 |
2008年 | 聖マリアンナ医科大学 難病治療研究センター 部門長/准教授 |
2014年 | 聖マリアンナ医科大学大学院 先端医療開発学 代表 兼務 |
2015年 | 聖マリアンナ医科大学 臨床研究データセンター 副センター長 兼務 |