Author interview

神経膠腫

西川 亮氏

掲載

神経膠腫は、神経膠幹細胞または同前駆細胞に由来すると考えられている主要な脳腫瘍である。神経膠腫は、従来から組織学的所見の違いより、星細胞腫、乏突起膠腫、または上衣腫に分類され、また、悪性度を示すWHOグレードのⅠ~Ⅳに分けられていた。遺伝子学、トランスクリプトミクスおよびエピジェネティクスにおけるプロファイリングの驚異的な進歩により、神経膠腫の分類と治療に新しい概念がもたらされた。… 続き

―― 今回のPrimer「神経膠腫」の内容について、注目すべき点、新たに分かったこと。

最近数年の神経膠腫における、網羅的な解析に始まる分子遺伝学・分子生物学のダイナミックな進歩によって、神経膠腫は分類から見直されつつあります。これまでの神経膠腫分類は形態と発生起源となる細胞種類によるものでしたが、これに遺伝子異常の内容が付記される方向に改訂される見込みです。遺伝子異常の有無が患者の予後に寄与することは次第に明らかになりつつありますが、しかし、この変動はまだ治療の面に及んでいるとはいえません。これは遺伝子異常の有無・内容による分類が、まだ完全に治療法と1対1の関係になっていないからですが、近い将来、標的治療の進歩などによって、治療面での進歩を予感させます。

―― 同Primerについて、日本と海外の差異について押さえておくべきこと。

このPrimerには、神経膠腫の分子マーカーに基づく新しい分類と治療法との対応図が掲載されていますが、治療においては、欧米で用いられるPCV1療法が、CCNU(ロムスチン)が国内で使えないために日本では実施できないことに注意が必要です。PAV(CCNUをACNU2に置換する方法)の同等性は示されていません。またテモゾロミドに置き換えることができるかどうかも、現時点ではまだ検証中です。

日本では、特に低悪性度神経膠腫の標準治療が定まっているとはいえません。今後、PCVがある種の低悪性度神経膠腫の標準治療として生き残って行くのかどうか、世界的にちょうどその瀬戸際ともいえる状況ですので、もう数年の経過を見る必要があります。

  1. PCV:塩酸プロカルバジン+CCNU(ロムスチン)+ビンクリスチンによる化学療法レジメン
  2. ACNU:ニムスチン

―― 同Primerについて、専門の異なる研究者・臨床医にどのように役立ちますか? 逆から見て、ご専門外のPrimerは、先生にどのように役立ちましたか?

神経膠腫に関する知見、標準治療や新しい治療についての、最新の情報を、可能な限り系統的な形で、得ることができます。

―― 臨床の現場や研究活動、教育指導などの場面では、どのような活用方法がありますか?

講義・講演、あるいは研究計画書・研究報告書などの総論部分において、図などを引用して解説をする際に活用することができます。

―― 先生ご自身の活用方法は?

本primerは、現時点での最新の知識を記載してあるので、他分野の研究者などに神経膠腫に関する知見を説明する際に活用したいと思います。

Nature Reviews Disease Primers 掲載論文

神経膠腫

Glioma

Nature Reviews Disease Primers Article number: 15040 (2015) doi:10.1038/nrdp.2015.40

Author Profile

西川 亮

埼玉医科大学国際医療センター脳脊髄腫瘍科・教授
神経膠腫に限らず悪性脳腫瘍の臨床試験を立案・計画し実行することを中心に研究しています。

1980年3月 東京大学医学部医学科卒業
1980年6月 東京大学医学部附属病院研修医
1981年1月 関東労災病院脳神経外科勤務。その後、都立荏原病院、都立豊島病院、都立府中病院を経て
1987年4月 国立がんセンター脳神経外科勤務
1991年2月 東京大学医学部附属病院脳神経外科医員、後に文部教官助手
1992年9月 米国 San Diego、 Ludwig がん研究所 post-doctoral fellow
1995年4月 埼玉医科大学脳神経外科講師、後に助教授
2005年4月 同教授
2007年4月 埼玉医科大学国際医療センター脳脊髄腫瘍科診療部長、現在に至る。

埼玉医科大学・脳神経外科

西川 亮氏

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