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新型コロナウイルス:教訓と次のパンデミックへの備え

2019年末から今日までのCOVID-19のパンデミックへの対応についてどう考えるか。

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2023年9月、世界的に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染者が増加する中、米国食品医薬品局(FDA)は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する新たなワクチンを承認した。最新のワクチンは、XBB.1.5変異株を標的としたもので、COVID-19による重症化、入院、死亡のリスクを減らすと期待されている。こうした動きは、COVID-19パンデミックが終息していないという事実を浮き彫りにしているが、COVID-19はエンデミックへと移行しつつあり、感染拡大は制御されていて、医療機関はアウトブレイクに対処しやすい状態となっている。

これは、パンデミックが発生してからわずか1年足らずでメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンが開発されて、普及したことによるところが大きい。今年9月初旬に開催された「第21回あわじ感染と免疫国際フォーラム」は、ワクチンをわずか100日間で開発する方法が1つの大きなテーマとなった。SARS-CoV-2が未知の病原体であった中、その病原体に対する免疫反応を明らかにすることに貢献した2人の研究者、東京大学医科学研究所の教授で同フォーラムの大会長である石井健博士と、ハーバード大学医学部(米国)の免疫学の元教授で現在はモデルナで免疫学研究部門のバイスプレジデントを務めるガリット・オルター博士が、このフォーラムの期間中に、COVID-19パンデミック、そしてこのパンデミックから科学界が得た教訓について振り返った。

東京大学医科学研究所の石井健教授。

Credit: Moderna

2019年末から今日までのCOVID-19のパンデミックへの対応についてどう考えるか。

オルター:COVID-19パンデミックは、ワクチンの歴史においてユニークな出来事でした。ワクチンの開発は加速し、ZoomやTeamsのようなテクノロジーによって、世界中の誰とでも交流できるようになり、世界中とのコミュニケーションをこれまでにない速さで行うことができるようになりました。私たちは、パンデミックの第一波の中でCOVID-19の発症メカニズムを理解し、これまでにない方法で交流・協力をしました。こうした経験は、自分自身を謙虚にさせるものであり、また刺激を与えてくれるものでもありました。COVID-19ワクチンが導入された際は、各国が可能な限り文化的に適切に対応していましたし、私たちもワクチンの免疫学的応答に関する情報を世界中の人々と共有しようとしました。ウイルスの変異株は今も絶え間なく進化していますが、そうした情報とワクチンの有効性についての知識をできるだけ早く共有し、新たな変異株の及ぼす影響に対して備え続けることが我々の責務です。

石井:ワクチン学者として、mRNAワクチンが有用なものであることは分かっていましたが、2020年の早い時期に開発が始まった100以上ものワクチン候補の中で、どれが成功するかは誰も予測できませんでした。まるでカンブリア紀のように、それぞれの開発者が異なる戦略でSARS-CoV-2スパイクタンパク質と闘い、その闘いを生き抜いて上市に至ったのはごく一部でした。米国では2つのmRNAワクチンが成功を収めました。日本は、ワクチン忌避や新技術への不安から対応が遅れましたが、3つの密(「密閉」「密集」「密接」)を避けるという政策が功を奏し、ロックダウンを行わなかったにもかかわらず、SARS-CoV-2への感染者およびCOVID-19による死者が非常に少なかったことが後に明らかになりました。日本の何が正しくて、何が間違っていたのかは評価しなければなりません。

パンデミックが始まったとき、何をしていたか。何ができると感じたか。

オルター:私たちは、製薬会社と協力して、入手可能な全てのワクチンについてプロファイリングを行い、なぜ一部の人々は感染しても助かるのかについて調べていました。しかし、ウイルスの中和を調べるだけでは十分ではないという課題に直面しました。中和抗体応答を回避する新たな変異株が続々と登場したものの罹患者数の増加が見られず、多くの人が困惑しました。私たちは、中和抗体以外の免疫応答による感染制御について教育が重要と考え、学会等での啓発活動に取り組みました。なお、ワクチン開発はまだ比較的保守的ですが、臨床試験におけるデザイン、コミュニケーション、並行追跡など飛躍的な進歩も見られ、免疫学的アプローチにも注目が集まっています。

石井:2020年以前、我々は危険な病原体の局所的なアウトブレイクには備えていましたが、何十億回分ものワクチンを必要とするパンデミックへの備えは十分ではありませんでした。備えがあったのは米国、英国、中国、ロシアの4カ国だけで、その他の国々はそのためのエコシステムを持っていなかったのです。

オルター:我々は何度か、小さなパンデミックの波は乗り越えてきましたが、ストーリーを完結させられなかったという点では残念でした。私たちは、2002年から2003年にかけて流行したSARS-CoV-1について深く研究しましたが、このウイルスに対するワクチンを作るところまで至りませんでした。ワクチン開発の商業的価値には限界があります。企業には自社の技術を使ってできる限り多くの人々の命を救うという公衆衛生上の責任があります。しかし同時に、営利企業としてワクチンを開発することのビジネス上のメリットに対する葛藤も存在します。そこでG7が主導する100日ミッションの出番です。ストーリーを毎回完結させるのにふさわしい人々をどうやって集めるかを考えなければなりません。

こうした経験が、将来のアウトブレイクの備えにどう生かされるか。

オルター:今後はしばらくSARS-CoV-2を追跡し、ワクチンを新しい流行株に対応させていくことになるでしょう。このウイルスは今後も存在し続けるのです。しかし、今こそ追跡が不要になるワクチンを作る良い機会でもあります。あらゆる変異株に対応できる免疫をもたらすワクチンをデザインする方法を考えています。100日でのワクチン開発に向けては、迅速に対応でき、大量生産できるテクノロジーを推し進めなければなりません。企業の立場として、テクノロジーを推進し続ける責任があります。全てのワクチンを上市させることはできませんが、安全性、有効性、品質に関する知識を構築し、免疫応答を適切に調整できるように、製造能力を高めていく必要があります。

石井:モデルナ社は、この分野ではテスラのような存在で、従来であればワクチン開発に10年かかるところに破壊的イノベーションをもたらしました。次のパンデミックのために、今回の300日でのワクチン開発よりさらに短い100日ミッションを行う必要があります。そのためには、分子から倫理まで幅広い領域での連続的なイノベーションが必要で、さらには感染症の歴史からの教訓も、AIを用いた将来の予測モデルも、また、さまざまな分野の人々の知恵も必要です。パンデミックに受動的に対応するのではなく、より良い未来のために予測をして備えなければなりません。これはCOVID-19以前にはなかった考え方ですが、遅かれ早かれ次のパンデミックはやってくるのです。

モデルナの免疫学研究部門のバイスプレジデントであるガリット・オルター博士。

Credit: Moderna

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