Author Interview

写真提供:立花奈央子(株式会社オパルス)

シャーペンの芯を電池に繋ぐだけで簡単に実現できる高分子間カップリング反応 ~オイルの粘度制御からゲル合成まで~

岡 美奈実 / 東京大学大学院

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2021年9月に、Communications Chemistry に掲載された論文の筆頭著者で、現在東京大学博士課程の岡美奈実氏に、本論文の内容、将来展望、研究への特技の活かし方、本誌での出版経験などさまざまな質問にお答えいただきました。

―― あなたの専門分野と本研究の研究背景を簡単に説明してください。

岡氏: 私の専門は高分子合成です。なかでも、外部刺激によって高分子形状を可逆的に操作することで機能をON-OFFできる高分子材料を設計・合成しています。このような材料は、外部刺激が及ぼされると魅力的な機能を示すだけでなく、解体・再利用することで資源循環にも貢献できます。全く新しい材料を設計してもよいかもしれませんが、身の回りで実際に用いられている高分子材料にこうした機能を実装したり、簡単で無駄の少ない合成方法や材料の再利用方法を確立したりすることも持続可能な社会を実現するためのポイントとして大切にしています。

―― 本論文の研究はどんな研究ですか?図も含めて分かりやすくご説明ください。

岡氏: 高分子間のカップリング反応は高分子形状を変換する方法のひとつで、高分子材料の物性を変化させる重要な反応です。今回の論文では、電解酸化によるロフィンの二量化反応を高分子間のカップリング反応に拡張することで(図1a)、電気刺激によるポリジメチルシロキサン(またはオリゴマー)の高分子の形状変換(ETT)と鎖延長(ECE)を達成しました(図1b)。塩基と無機酸化剤を多量に必要とする従来の水-有機二相系の酸化反応に対し、本反応は精製が簡単な一相系の反応であり、原理上、溶媒と支持電解質を再利用できる利点もあります(図1a)。さらに、イオン液体を溶媒兼支持電解質として利用することで、一段階で精製不要な網目状高分子を合成することにも成功しました(図1b)。

図1
図1:(a) 従来研究および本研究のロフィンの酸化に基づく高分子間カップリング反応、(b) 電解酸化による高分子の形状変換(ETT)と鎖延長(ECE) | 拡大する

Minami Oka et al., Communications Chemistry doi. 10.1038/s42004-021-00570-7

―― 本論文の研究を実施するにあたり、工夫したところや思い入れについて教えてください。

岡氏: 本実験を遂行するにあたり、様々な電極を試しました。もちろん、電極の表面積が大きいに越したことはないですが、市販のシャーペンの芯でも電極として活用できたことには驚きました。この結果を受け、電解反応をUV追跡できるようにシャーペンの芯が付いたUVセルのキャップを自作したことが工夫したポイントです。どうすれば実験しやすくなるかを考えて実験のセットアップを自作することも研究の楽しみのひとつであると感じています。

―― この技術が私たちの日常生活に将来的にどのような影響を与えると思いますか?

岡氏: 電解反応に必要なものはシャーペンの芯(電極)と電池です。いずれも誰でも簡単に手に入れることができるものです。将来、化学を専門としない人でも、材料にシャーペンや鉛筆の芯を刺して電池と繋ぐだけで材料の物性を自由に変えることができる時代がやってくるかもしれませんね。

―― 趣味や特技について教えてください。また、趣味や特技が自身の研究に活かされた体験談がありましたらお聞かせください。

岡氏: 趣味は、水泳、スキー、書道、手芸など様々です。なかでも、水泳と書道は10年以上本格的に続けた経験があり、そこから得た粘り強さは研究にも生きていると感じます。

―― 書道のトップ画像はご自身ですよね? 書道の師範でいらっしゃるとのことですが、その経験を活かせたお話はありますか?

岡氏: はい、私です。普段は机の上で半紙に書いていますが、お着物を着て大きな文字を書いてみることが夢でした(図2)。素敵なお着物と羽織を貸してくださった城田衣さん(キヤノン株式会社)と素敵なお写真を撮ってくださった立花奈央子さん(株式会社オパルス)にこの場を借りて感謝申し上げます。また、最近では論文の表紙にも書道を活かしたデザインを採用していただきました。論文の表紙のほとんどがCGで製作されていますが、あえてCGを使わず、折り紙、切り紙、さらには墨で書いた書を使った作品とすることで自分にしかできない世界観を表現することに挑戦しています。

図2
図2:書を作製する様子 | 拡大する

写真提供:立花奈央子(株式会社オパルス)

―― 御研究と書道との接点もみえてきているのですか?

岡氏: 実は書道に使用する墨汁にも導電性を示すものがあることを最近になって知りました。そこで、墨で書いた文字を電解反応の電極に使ってみたところ、反応が進行したときの典型的な色であるピンク色に溶液の色が変化しました(図3)。このように、何かをやってみて成功したり、「あっ!」と驚いたりする瞬間が一番楽しいです。論文には、より誰でも入手しやすいシャーペンの芯を電極としたデータを採用していて墨を使った実験のデータは載せていませんので、満を持して本記事で紹介することにしました。

図3
図3:墨で書いた文字の電極による電解反応 | 拡大する

Minami Oka et al., Communications Chemistry doi. 10.1038/s42004-021-00570-7

―― 研究成果を出版するとしたら、どのようなジャーナルに出版したいと思いますか? また、Communications Chemistry で論文を出版した印象を教えてください。

岡氏: 第一に、レベルの高い研究が多く掲載されている有名な(ハイインパクトな)ジャーナルに出版したいです。第二に、より多くの人に研究成果を知ってもらえることが大切だと思うので、誰でもストレスなく読めるオープンアクセス誌であることも重視したいです。Communications Chemistry 誌はこれらを併せもっていると考えています。最近ではTwitterやネット広告などでもよくCommunications Chemistry の文字を目にするようになり、今後の期待も高まります。また、出版までも比較的スムーズに進んだ印象があります。今回このようなインタビュー記事の機会もいただくことができ、本当に嬉しく思います。

―― 将来の夢を聞かせてください。また、これから研究をはじめる大学生へのメッセージをお願いします。

岡氏: 将来の夢は、まだないものを自らの手でつくり、人々を笑顔にすることです。研究する立場になって改めて世の中の技術のすごさを知りました。私たちが普段“当たり前”だと思っているものの多くは数~数十年前では考えられなかったものであり、それらを生み出すために努力した人がいるはずです。私は、まだないものをつくることで未来の“当たり前”を少しでも変えることができたらいいなと思っています。

研究は決して楽ではありませんし、うまくいかずに悩むこともあります。ですが、誰もやったことがないことに取り組むからこそのワクワク感があります。これから研究を始める大学生にも、是非そんな気持ちを味わってもらえたらと思います。

取材:本多智(Communications Chemistry 編集委員)

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
この作品はクリエイティブ・コモンズ表示4.0国際ライセンスの下に提供されています。

Communications Chemistry 掲載論文

Article: ポリシロキサンの電気化学的高分子トポロジー変換

Electrochemical topological transformation of polysiloxanes

Communications Chemistry 4 Article number: 130 (2021) doi:10.1038/s42004-021-00570-7 | Published: 15 September 2021

Author Profile

岡 美奈実(おか みなみ)

東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 博士課程(2020年~)

経歴:
東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 修士課程修了(2020年)

モットー:
いつも笑顔で元気よく!

岡 美奈実氏

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