Volume 32 Number 2

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特集: 免疫系の高次元解析

多くの臓器系では、構成タンパク質が生殖系列のDNA配列にコードされており、その組成は環境に変動があっても比較的安定している。これに対し、免疫系の細胞が発現する受容体は、生殖系列のDNA領域の無作為で予測不能な体細胞組換えによって組み立てられる上、病原体に遭遇するとこの受容体にはさらに変異が生じ、それを発現する免疫細胞は増殖または消失することもある。その結果、免疫の「レパートリー」には個体差が生じ、同じ個体でも免疫系は感染や加齢、疾患によって経時的に大きく変化する。

この大規模な個体内および個体間の多様性が、ヒト免疫系の詳細な解明と操作を阻む大きな技術的障害となっている。今月号の特集には、こうした技術的課題を克服する研究の最近の進展に関する一連の記事と論文を掲載した。ただし、この分野の進歩を阻む要因は技術だけではない[Editorial, p. 145]。

それぞれの個体には数百万通りのBリンパ球とTリンパ球が存在し、それぞれが固有の受容体を発現している。こうした受容体の重要性は侮れない。分泌されたB細胞受容体は病原体を中和する抗体になり、T細胞受容体(TCR)は微生物に感染した細胞を認識してその細胞死を引き起こす。この受容体を個別に同定して目録作りを行うために、DNA塩基配列の解読が行われている。これは、数百万個の変数を明らかにするのに十分な処理能力を有する数少ない既存技術の1つである。

George GeorgiouとGregory Ippolito、John Beausang、Christian Busse、Hedda Wardemann、Stephen Quakeは、急速に進化する「抗体レパートリー配列解読」の分野を検討し、さまざまな方法論の長短を概説するとともに、その方法によってすでに解決された、あるいは将来的に解決が期待される基礎的および臨床橋渡し的問題を明らかにしている[Review, p. 158]。

Evan NewellとMark Davisの総説では、TCRレパートリーの配列解読法を概説している[Review, p. 149]。ただし、配列を解読して終わりという話ではなく、ここでは、新たなディスプレイ技術とサイトメトリー技術を用いて、対象とする抗原に特異的な受容体を発現するT細胞を同定する方法も示されている。

免疫学の高処理能データセットを生成するには多額の費用と長い時間を要するため、複数の研究室でデータセットの共有を図ることが重要な目標となっている。HIPC(Human Immunology Project Consortium)は、免疫学研究でこうしたデータ共有を一般的なものとするために必要な基準とリポジトリー、解析方法の設計に取り組んでいる[Correspondence, p. 146]。

今回の特集の大きな目標の1つは、そうした新しい技術と解析方法を開発する科学者と、免疫学の基礎的および臨床橋渡し的問題を研究する免疫学者および臨床医とが、相互に対話を進められるようにすることである。そのため今回の特集では、姉妹誌Nature Immunologyとの共同制作を行った。この2つの研究コミュニティーの間で議論を進めることにより、健康時と疾患時のヒト免疫系の働きが明らかにされるとともに、免疫系の操作によって治療効果を得るための方法が設計されるものと期待される。

Editorial

Correspondence

HIPCからの高次元免疫解析用コンピューター・リソース

Computational resources for high-dimensional immune analysis from the Human Immunology Project Consortium p.146

doi: 10.1038/nbt.2777

Perspective

モデル抗原を越えて:抗原特異的T細胞の高次元な分析法

Beyond model antigens: high-dimensional methods for the analysis of antigen-specific T cells p.149

doi: 10.1038/nbt.2783

抗体レパートリーの高処理能配列解読法の明るい見通しと課題

The promise and challenge of high-throughput sequencing of the antibody repertoire p.158

doi: 10.1038/nbt.2782

Editorial

探索と開発

Search and development p.109

doi: 10.1038/nbt.2832

News

イルミナ社のNGSが画期的な承認の後押しで研究から臨床へ

Milestone approval lifts Illumina's NGS from research into clinic p.111

doi: 10.1038/nbt0214-111

投資家がCARに殺到

Investor stampede for CARs p.112

doi: 10.1038/nbt0214-112

FDAがB細胞がんの大型新薬インブルビカを承認

Imbruvica—next big drug in B-cell cancer—approved by FDA p.113

doi: 10.1038/nbt0214-113

シャイア社が希少疾患に転換

Shire shifts towards rare diseases p.114

doi: 10.1038/nbt0214-114

イルミナ社が1000ドルゲノムでの勝利を主張

Illumina claims $1,000 genome win p.115

doi: 10.1038/nbt0214-115a

PARP阻害剤の復活

PARP inhibitors' revival p.115

doi: 10.1038/nbt0214-115b

セルジーン社、オンコメド社とニューヨーク市に数十億ドル

Celgene's multibillion spree on Oncomed/NYC p.116

doi: 10.1038/nbt0214-116a

肺扁平上皮がんの「統一プロトコル」が始動間近に

Master Protocol for squamous cell lung cancer readies for launch p.116

doi: 10.1038/nbt0214-116b

公然の事実:生物製剤は製薬会社のお気に入り

It's official: biologics are pharma's darlings p.117

doi: 10.1038/nbt0214-117

ボストンの主要な4研究施設が生検の見直しへ

Boston quartet revamps biopsies p.118

doi: 10.1038/nbt0214-118

英国が創薬ツールを強化

UK boosts discovery tools p.119

doi: 10.1038/nbt0214-119b

英国が創薬ツールを強化

Setback for JAK2 inhibitors p.119

doi: 10.1038/nbt0214-119a

世界の1か月

Around the world in a month p.120

doi: 10.1038/nbt0214-120

バイオ技術パイプラインの最新情報 ― 2013年

Fresh from the biotech pipeline—2013 p.121

doi: 10.1038/nbt.2811

医薬品パイプライン: 2013年第4四半期

Drug pipeline 4Q13 p.125

doi: 10.1038/nbt.2815

2013年 ― バイオ企業の復活

2013—biotech back in the saddle p.126

doi: 10.1038/nbt.2826

Data Page

2013年の革新的ベンチャー企業

Innovative startups 2013 p.127

doi: 10.1038/nbt.2807

News & Views

天然の鎖構造を有する二重特異性抗体

Bispecific antibodies with native chain structure p.136

doi: 10.1038/nbt.2812

クロマチン構造に秘められた暗号の解読

PIQ-ing into chromatin architecture p.138

doi: 10.1038/nbt.2824

多彩なナチュラルキラー細胞集団

Of snowflakes and natural killer cell subsets p.140

doi: 10.1038/nbt.2810

バイオフィルムをワンツーパンチでノックアウト

A one-two punch knocks out biofilms p.142

doi: 10.1038/nbt.2813

Perspectives

ナノ細孔によるタンパク質リン酸化の一分子部位特異的検出

Single-molecule site-specific detection of protein phosphorylation with a nanopore p.179

doi: 10.1038/nbt.2799

Smac擬似体および自然免疫刺激は相乗的に腫瘍の死を促進する

Smac mimetics and innate immune stimuli synergize to promote tumor death p.182

doi: 10.1038/nbt.2806

直交性Fab界面の構造に基づく設計による二重特異性IgG抗体の作製

Generation of bispecific IgG antibodies by structure-based design of an orthogonal Fab interface p.191

doi: 10.1038/nbt.2797

Computational Biology

DNaseプロファイルの規模および形状のモデル化による方向性および非方向性の先駆的転写因子の発見

Discovery of directional and nondirectional pioneer transcription factors by modeling DNase profile magnitude and shape p.171

doi: 10.1038/nbt.2798

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