2016年1月号Volume 13 Number 1
「ゴジラ級」エルニーニョを捕まえろ!
エルニーニョという名前は、毎年クリスマス頃にペルー沖合に現れる高温の暖流が神の幼子にちなんで「corriente del Niño」と呼ばれていたことに由来するが、気象学では、数年に一度、熱帯太平洋全域で海面水温が平年よりも上昇する現象を指す。予測不能である上に毎回様態が異なり、そのメカニズムも不明だ。現在発生中のエルニーニョは2014年夏に始まり、その冬には終息したかに思われたが、再び水温が上昇し始め、2015年11月には観測史上3番目を記録した。2016年夏頃には終息すると予測されているが、干ばつや大洪水などに備えるよう、世界各地で警告や緊急事態宣言が出されている。
Editorial
News
彗星で大量の酸素分子見つかる
欧州宇宙機関(ESA)の探査機が訪れているチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星で、酸素分子が大量に見つかった。この発見により、太陽系形成理論に再検討が必要になるかもしれない。
筋ジストロフィーモデルの子犬を救った予想外の変異
この犬に見つかったある遺伝子の変異から、筋萎縮を防ぐ新しい治療法が見つかる可能性がある。
細胞内に潜む耐性菌に効く、新方式の抗生物質
黄色ブドウ球菌の一部はマウス細胞内に隠れて存在することで抗生物質による治療に耐性を示すが、これを殺菌できる抗体–抗生物質抱合体が報告された。
「超遺伝子」で決まるエリマキシギの恋のアプローチ法
エリマキシギの雄には、雌を獲得する方法が異なる3つの型があり、それぞれ外見も異なる。どの型になるかは125個もの遺伝子が連なった長いDNA領域の内容によって決まる。
炭素を大気から取り出す技術が事業化目前
大気中の二酸化炭素を直接捕捉して資源として再利用することは不可能ではないが、事業化はコスト面から困難だとみられていた。このほど2つの企業が、炭素捕捉・再生を行うプラントの拡大と改良を発表した。
抗がんウイルス製剤が間もなく市場に
がん治療薬として米国で初めて、ウイルス製剤T-VECが承認された。欧州もそれに続くとみられる。
学問の自由を脅かすロシア大統領令
大統領令を受け、ロシア最大の名門大学の生物研究所で、「全ての研究者は、論文を発表する前に情報機関に原稿を提出し、承認を受けなければならない」という指示が出された。
細菌から新しい遺伝子カッター発見
CRISPR系を持つ細菌に、CRISPR/Cas9系の難点を解消し得る新酵素が見つかった。
生命科学界の頭脳が続々とテクノロジー企業へ
グーグル社などの巨大テクノロジー企業が、ヘルスケア事業参入のために生物医学分野の一流研究者を引き入れている。
News Feature
「ゴジラ級」エルニーニョを捕まえろ!
現在、観測史上最強規模まで発達しそうなエルニーニョが発生しており、この時期に偶然にも太平洋の赤道付近に調査航海に出ていた研究チームがデータを収集中だ。
Comment
ヒトゲノム計画25年の軌跡
ヒトゲノム計画の開始からちょうど四半世紀。コンソーシアム研究の先駆けとなったこのプロジェクトは、現在も、こうした科学研究に多くの教訓を提供することができると、このプロジェクトを推進してきたEric D. Green、James D. Watson、そしてFrancis S. Collinsは語る。
Japanese Author
老化を制御し、予防する
年齢とともに、体の生理機能が低下する「老化」。私たちはなぜ老化するのか。老化は、どのような仕組みで制御されているのか。その謎を追い続けてきた今井眞一郎教授は、制御の中核となる「サーチュイン遺伝子」の機能を発見し、さらに、脳をコントロールセンターとする組織間ネットワークの働きを研究してきた。「老化の仕組みを科学的に解明することは、病気を効率的に予防する方法を見いだせる最善の道」と今井教授は語る。
News & Views
ヒトiPS細胞から作製した腎臓オルガノイド
iPS細胞を分化させて、腎臓の全ての組織を備えた腎臓オルガノイドが作製された。移植可能な腎臓を培養系で発生させるための重要な一歩といえる。
限界を超えた薄型トランジスター
理論限界を大きく下回る駆動電圧で動作する次世代トランジスターが実証された。消費電力の極めて少ない集積回路を開発する道が開かれると期待される。
News Scan
宇宙背景ニュートリノの証拠
ビッグバンとともに生じたニュートリノが後の宇宙背景放射に残した痕跡を特定
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