News & Views

太陽の秘密に間近で迫る

製作中のパーカー・ソーラー・プローブ。2017年4月、ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理学研究所(米国メリーランド州)で。 Credit: NASA/Johns Hopkins APL/Ed Whitman

太陽は、他の恒星と比較すれば地球の極めて近くにあるが、興味深く、また基本的な謎は残っている。例えば、太陽表面の温度は6000ケルビン(K)未満であるにもかかわらず、コロナ(太陽の最も外側の大気)が100万Kよりも高い温度をどうやって維持しているのかはまだ分かっていない1。コロナは太陽風を作る。太陽風は、プラズマ粒子(自由なイオンと電子)の流出であり、惑星間空間へ広がっていく。米航空宇宙局(NASA)は2018年8月、コロナの加熱と太陽風の加速のメカニズムを見いだすことを目的にした太陽探査機パーカー・ソーラー・プローブ(PSP)を打ち上げた2。今回、PSPの最初の観測結果を報告する4つの論文が、Nature 2019年12月12日号223ページ(David J. McComasら)、228ページ(Justin C. Kasperら)、232ページ(Russell A. Howardら)、 237ページ(Stuart D. Baleら)に掲載された3-6

PSPは、太陽まで2400万キロメートルという近距離で観測を行った(水星と太陽の平均距離は約5800万キロメートル)。観測結果は、太陽近くでの太陽風は、地球近傍での太陽風よりも明確な構造を持ち、動的であることを示した(図1)。カリフォルニア大学バークレー校(米国)とロンドン大学インペリアルカレッジ(英国)に所属するStuart D. Baleらは、太陽風によって宇宙空間に引きずり出されている、太陽磁場の方向と強さの測定結果を報告した3。Baleらは、数分間だけ持続する、磁場方向の素早い反転を発見した。同様の磁場構造はすでに観測されているものの7、この反転の振幅の大きさと高い発生頻度は驚きだった。こうした構造の本質は分からないままだ。

Baleらはまた、太陽風の中の局所的な電場と磁場の変動について、地球近傍で検出された変動よりも大きな変動をPSPのセンサーが検出したことも報告した。こうした変動は、太陽風の乱流によって、あるいはイオンや電子で駆動されるプラズマ不安定性によって生じている可能性がある。そうした変動の存在は、プラズマ不安定性がこれまで考えられていたよりもずっと大きな影響を太陽風のダイナミクスとエネルギーに及ぼしていることを示す。

ミシガン大学(米国アナーバー)とスミソニアン宇宙物理観測所(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)に所属するJustin C. Kasperらは、太陽周辺のプラズマのイオンと電子の観測を報告した4。彼らは、太陽の磁場の反転には、プラズマ速度の動径成分(太陽の中心から離れる方向の速度)の局所的な増大が伴っていることが多いことを見いだした。Kasperらは、太陽風のストラール(Strahl=平行になった高速な電子のビームで磁場に沿って流れる)の非常に明瞭なシグナルを使い、磁場の形と構成を調べて、磁場反転を、太陽からの磁力線の移動していくS形屈曲と解釈した。

Kasperらは、プラズマ速度の驚くほど大きな方位角成分(太陽の自転軸に垂直な面内にあり、動径方向に垂直な速度成分)も報告した。この成分は、コロナの磁場からプラズマが放出される際、太陽の自転が方位角方向にプラズマを加速する力の結果生じる。これは、回転するハンマー投げ選手がハンマーを投げるときと似ている。しかし、方位角速度の観測値が大きい理由は今のところ、不明だ。

プリンストン大学(米国ニュージャージー州)のDavid J. McComasらは、高エネルギーのイオンと電子の検出を報告した5。高エネルギーのイオンと電子の一部は、地球に近い領域よりも、コロナのすぐ外の領域で観測されることが多い。こうした粒子は、コロナでのフレア(放射の噴出)によって、あるいは、惑星間空間を進む、コロナ質量放出(プラズマの噴出)に伴う衝撃波によって加速される。McComasらは、2つのタイプの発生源領域について、対応する粒子をそれぞれ見つけた。

高エネルギー粒子は太陽の磁場に沿って進むので、速い粒子と遅い粒子がPSPに到着する時間差を使って、磁場に沿った粒子の経路の長さを見積もることができる。McComasらは、経路の長さは予想よりも長いことを見いだした。この事実は、磁場は想定よりも複雑な形を持つことを示唆した。この発見は、S形の磁場反転が原因である可能性がある。

図1 太陽近傍の環境
太陽の最も外側の大気は、プラズマ粒子(イオンと電子)の流出を作り、この流出は太陽風と呼ばれる。太陽風中のストラール電子と高エネルギーの粒子は、太陽の磁力線に沿って流れる。現在、太陽の周りを回る軌道にあるパーカー・ソーラー・プローブ(PSP)の観測結果を、4つの論文3–6が報告した。磁力線にはS形の屈曲があること、また、太陽は、新たな太陽風の一部を形成するプラズマ小塊を放出することをPSPの観測データは示した。太陽の紫外光画像は、PSPが太陽に初めて接近した日に、NASAの太陽観測衛星ソーラー・ダイナミクス・オブザーバトリーが撮影した。

PSPに搭載された画像撮影装置は、太陽の近くの電子とダストによって散乱された光の遠隔観測を行う。米国海軍研究所(ワシントンD. C.)のRussell A. Howardらは、ダスト散乱光の強度は、地球からの観測とほぼ同様に、太陽からの距離とともに小さくなると報告した6。しかし、Howardらは、太陽の近くの仮説上のダストのない領域8が存在することを示す予備的な証拠を発見した。この領域は、これまで検出されていなかった。PSPからの詳細な画像は、太陽表面の磁場の変動と調和する、太陽風の空間的変動も示す。また画像は、太陽から放出されて新たな太陽風の一部を形成するプラズマ小塊を明らかにした。

PSPは、太陽系の未調査の領域に入り込むことにより、すでに大きな発見をしたことをこの4つの論文は示している。近い将来、得られる全ての情報源を合わせて、太陽と太陽風の物理の理解をより深めることが重要だ。例えば、電場と磁場の測定をプラズマ粒子の詳細な観測と結合させ、電磁場とプラズマがどのように相互作用し、不安定性を駆動するのかを決定すべきだ9。大きな方位角流速についてもさらに調べ、それが持続する特徴なのか、PSPの最初の観測時の1回限りの例外にすぎないのかを確かめなければならない。

磁場モデルを使えば、太陽とPSPの間の高エネルギー粒子の経路について、さらには宇宙天気(地球と人間の技術への太陽と太陽風の影響)について、より多くを知ることができるだろう。こうした高エネルギー粒子の研究は、太陽表面とコロナの遠隔観測とも関連付けられなければならない。太陽の近くにダストのない領域が存在する可能性を調べることは、もう1つの短期目標に違いないが、今後、PSPが太陽にさらに近づくまで待たなければならないかもしれない。

PSPの観測データは、太陽と太陽風の私たちの理解において今後何年もの間、指針になると考えられる。PSPの発見に刺激され、新たなモデルや理論が作られるだろう。また、こうした知識は、宇宙の他の恒星や天体物理学でのプラズマの理解に役立つだろう。太陽は、宇宙船を使って間近で研究できる唯一の恒星だ。太陽の周囲を回る軌道にあるPSPは、今後数年間でさらに太陽の近く、太陽表面からわずか600万キロメートル余りまで接近する2。この間に太陽は、11年周期のより活発な時期に入っていく。だから私たちは、間もなくさらにエキサイティングな結果を期待できる。

2020年、欧州宇宙機関(ESA)は太陽探査機ソーラー・オービターを打ち上げる10。ソーラー・オービターは、PSPほど太陽の近くまで行かないが、搭載する観測装置は幅広く、PSPと連係して太陽の重要な情報を明らかにするだろう。例えば、ソーラー・オービターは、イオンの元素組成と荷電状態を測定し、光のさまざまな波長で太陽の写真を撮る。こうしたPSPとソーラー・オービターの共同測定は、太陽と太陽風に関する私たちの知識の足りない部分を間違いなく補ってくれるだろう。太陽には解明すべき多くの謎がまだあることが今回の観測で分かった。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 3

DOI: 10.1038/ndigest.2020.200334

原文

A step closer to the Sun’s secrets
  • Nature (2019-12-12) | DOI: 10.1038/d41586-019-03665-3
  • Daniel Verscharen
  • Daniel Verscharenは、ロンドン大学ユニバーシティカレッジ・マラード宇宙科学研究所(英国ドーキング)に所属。

参考文献

  1. Aschwanden, M. Physics of the Solar Corona: An Introduction with Problems and Solutions (Springer, 2005).
  2. Fox, N. J. et al. Space Sci. Rev. 204, 7–48 (2016).
  3. Bale, S. D. et al. Nature 576, 237–242 (2019).
  4. Kasper, J. C. et al. Nature 576, 228–231 (2019).
  5. McComas, D. J. et al. Nature 576, 223–227 (2019).
  6. Howard, R. A. et al. Nature 576, 232–236 (2019).
  7. Horbury, T. S. et al. Mon. Not. R. Astron. Soc. 478, 1980–1986 (2018).
  8. Lamy, P. L. Astron. Astrophys. 33, 191–194 (1974).
  9. Marsch, E. Living Rev. Sol. Phys. 3, 1 (2006).
  10. Müller, D. et al. Solar Phys. 285, 25–70 (2013).