2011年4月号Volume 8 Number 4
割るだけで、絶縁体が導電性に
液晶ディスプレイの透明電極など、酸化物エレクトロニクスの研究が大きな展開を見せている。その代表選手ともいえるチタン酸ストロンチウム(STO)で、極めて興味深い性質が明らかになった。なんと、結晶をへき開、つまりただ割るだけで、表面が導電状態になったのだ。物理学の新たな謎、工学の新しい可能性が生まれたわけだ。
Editorials
天然痘ウイルス株の保存は継続すべきだ
米国とロシアで保存されている天然痘ウイルス株は、今でも有用であり、破棄すべきではない。政治的妥協を図って保存を続けることが最善の道だ。
News
セックスと暴力は脳内でリンク
マウスの視床下部の奥深くに存在するニューロン群は、出会った相手と戦うか、それとも交尾するかの判断にかかわっている。
最古の銀河は独りぼっち?
これまでで最も遠い銀河が発見された。この銀河は単独で存在しており、初期宇宙の天体は予想よりも少ない可能性が出てきた。
この骨は歩くために作られた
ヒトが持つようなアーチ型の土踏まずを、アファール猿人も持っていたことが示され、アファール猿人は樹上生活者でなかったという主張が裏付けられた。
農業の始まりは粘菌から
土壌に生息する細胞性粘菌は、食物を節約して「種」とし、別の場所に「まく」という「農業」を行っている。
記憶を強化するタンパク質ホルモン
記憶を強化するための標的になりそうな分子が、ラットの研究で新たに見つかった。
南極のニュートリノ観測所が完成
南極の氷の下に完成した巨大なニュートリノ観測所から、新しい物理学につながる知見がもたらされるかもしれない。
トップモデルになった細胞
患者由来の細胞を再分化させた培養疾患細胞を用いて、治療法の開発を試みる疾患が増え続けている。今回そのリストに、ある心疾患も加わった。
News Features
フラーレン、ナノチューブ、グラフェン
25年前にフラーレンが発見され、その後も、カーボンナノチューブ、グラフェンと炭素材料の新顔が登場した。それらの優れた特性については、さまざまな研究を通して明らかにされてきたが、商品化という点では、当初の期待の割には進んでいない。
心を光で診断する
日本の医療機関では、精神疾患の診断の補助に、近赤外線イメージング技術を利用するようになってきている。批判派は、この技術を臨床に使う準備が整っているかどうかが疑問だという。
Twitterによる審判
発表された論文が、わずか数日で、ほかの研究者のブログやツイッター上で激しく批判されるケースが増えている。研究者らは、こうした批判にどのように対応するべきか、戸惑いを感じている。
Comment
明日の化学 — 世界化学年2011
現代を代表する10人の化学者が、これから優先的に取り組むべき課題を挙げ、自らが尊敬する科学者について語った。
Japanese Author
がん細胞を自滅させるスイッチ (井上 丹)
生体での多様な働きが研究者の注目を浴び続けているRNA(リボ核酸)。長年、RNAの機能と構造の解析に取り組んできた井上丹教授は、豊富な知識をいかして、新しいRNA分子や反応系を作り出すことにした。そして、誕生したのが「RNAスイッチ」1,2*。病気の予防や治療に広範に利用できると期待されている。
News & Views
失われた記憶を取り戻せるか
「年を取るにつれて人は賢くなる」と言われているが、年を取ると記憶を保持する能力が低下していくというのが現実だ。しかし、この問題を解決する方法のカギが見つかったかも知れない。アルツハイマー病モデルマウスのニューロンで、シグナル伝達分子EphB2の発現レベルを上昇させたところ、記憶障害が回復したのだ。
絶縁体が、割るだけで導電性に!
2種類の酸化物絶縁体を積み重ねると、両者の界面に導電性の系が生じることが知られている。しかし、意外なことに、酸化物絶縁体をただ割っただけでも、その劈開面で同じ導電現象が現れることがわかった。