Author Corner: 湖は温暖化しているか?
原文: 17 March 2015 Author’s Corner: Are lakes warming?
地球規模および特定地域の気候変動が、陸上や水中の生態系に重大な影響を及ぼすことは広く認識されている。最近発表された研究からも、世界各地の湖や貯水池の顕著な温度上昇が明らかになっている。温度上昇は、個々の湖の特定の地点での「その場(in situ)測定」データに基づく研究のみならず、人工衛星を使って、より広い範囲の湖面温度の傾向を調べる研究でも確認されている。驚くべきことに、湖の温度の上昇ペースが周囲の気温の上昇ペースを上回っている場合があることも分かっている。過去に例を見ないこうした急激な温度変化は、湖水の混合や、湖の水文学的性質、生産性、生物集団に深刻な影響を及ぼす。
これまでの研究と観測により明らかになった湖の急激な温暖化、そして、温暖化がもたらす生態学的・水文学的影響の重大さを考えると、全球の湖の「その場測定」と遠隔測定による温度記録を統合することが極めて重要になってくる。2010年に発足した全球湖沼温度共同研究(Global Lake Temperature Collaoboration:GLTC)は、世界の湖の温度記録に関心を持つ研究者や、こうした記録を利用する研究者の国際的な組織である。3カ国の10人の研究者の集まりとして始まったGLTCには、現在、世界20カ国の80人以上の研究者が参加している。
GLTCのプロジェクトが進むにつれ、真にグローバルなデータベースを構築するためには、人工衛星からの遠隔測定データだけでなく、全球湖沼環境観測ネットワーク(Global Lake Ecological Observatory Network:GLEON)などが地上で収集する「その場測定」データも必要であることが明らかになってきた。両方のデータが必要なのは、それぞれに異なる長所があるからだ。遠隔測定によって得られた湖面温度のデータは、世界各地の主要な湖をカバーしており、そのほとんどが1985年まで遡ることができる。これに対して、「その場測定」データは、人工衛星では観測できない小規模な湖の温度データを提供することで、記録の穴の一部を埋めることができる。また、「その場測定」データの多くは1985年よりさらに過去まで遡ることができ、少数ながら水温の鉛直分布の情報もある。
GLTCのデータベースは、現在、世界291カ所の湖と貯水池の夏季の平均湖面温度を収集していて、そのデータ量は人工衛星による観測データのみを収集していた頃の約2倍となっている。GLTCの最初のデータベース(現在Scientific Data から公開されている)は1985-2009年のデータをまとめたもので、人工衛星による遠隔測定と地上での「その場測定」から得られた湖面温度データを初めて全球で編集した公開データベースとして、幅広い分野の研究者が分析や解釈に利用されている。データベースでは、湖面温度のほか、湖面温度に影響を及ぼす可能性のある地形的特徴(緯度、経度、高度、湖面面積、最大深度、平均深度、体積)や、各観測地点の気候駆動要因(温度、太陽放射、雲量)の情報も提供している。GLTCは今後、より多くの湖の、より長い期間の、水温の鉛直分布も含めたデータベースを作成する予定である。このユニークな全球データは、気候変動の只中にある湖の熱的条件について、貴重な展望を示してくれるはずだ。
「その場測定」と人工衛星を使った遠隔測定による湖面温度の観測データをSharmaらがまとめた1985-2009年の湖面温度の全球データベースは、Scientific Data にてオンラインで利用可能となっている。
全球湖沼温度共同研究(GLTC)は、湖水の温度変化の解明に関心をもつ20カ国の80人以上の研究者による国際共同研究である。