2013年4月号Volume 10 Number 4
食の変化が、オオカミをイヌにした?
イヌは、オオカミが家畜化された動物である。今回、スウェーデンの研究者たちは、オオカミ12頭とイヌ60頭のゲノムを比較し、イヌとオオカミの間でのみ違いが見られる遺伝子を洗い出した。その結果、36か所が得られ、うち19か所は、脳の発達や機能に関わる遺伝子だった。これらが、イヌに人なつっこい性格をもたらしたのであろう。さらに注目すべきことに、デンプンの消化を助ける遺伝子が、イヌでだけ見つかった。ということは、イヌが人間たちの残飯を消化吸収する能力を得たことが、家畜化の必須条件だったらしい。
Editorials
科学啓発活動の発祥地・王立研究所の危機
ファラデーのクリスマス講演会で知られる英国王立研究所が、財政難に陥って建物の売却を検討している。多人数を対象とした科学啓発活動は曲がり角を迎え、新たな進化が求められている。
Research Highlights
News
南極大陸の氷底湖で生命を発見
米国の掘削チームが南極大陸の氷底湖からサンプルを採取することに成功し、そこに多数の微生物が存在することを発見した。
転移中の乳がんをキャッチ
血液を循環しているがん細胞の特徴から、がんの転移の仕組みを説明する有力な仮説の1つが裏付けられた。
イヌの家畜化のカギは残飯だった?
オオカミから「人間の最良の友」を生み出した遺伝的変化が突き止められた。
がん細胞を自滅に追い込む低分子薬
TIC10という低分子薬は、血液脳関門を透過でき、現在有効な治療薬がない脳腫瘍の一種である膠芽腫に対しても有効性を示した。
iPS細胞の安全性に新たな裏付け
iPS細胞移植の免疫応答に対する懸念は過剰だったようだ。
科学者が、インサイダー取引に巻き込まれる!?
近年、エキスパート・ネットワークに登録した医師や研究者が、ヘッジファンドのインサイダー取引に関与したとして告発されるケースが増えている。
景気刺激策で、日本の科学予算が大幅増額
日本の新政権による景気刺激策で、科学技術関連予算も大盤振る舞いだ。
助成金の重複受給はチェックされているか?
複数の米国研究助成機関によく似た申請書が提出された事例は見つかったが、Natureの調査でも不正な重複受給は確認できなかった。 ただし、助成機関のチェック体制や判断基準には改善の余地がある。
News Features
簡単な算数ができない学習障害
電話番号などの簡単な数字を覚えたり、簡単な足し算をしたりするのがひどく苦手な人がいる。このような「算数障害」があっても、知能面に全く問題がなく日常生活を支障なく送っている人も多い。この「算数障害」をとおして数認識の仕組みを探るとともに、その障害者支援に尽力する研究者がいる。
人間は、儀式をするサルである
人間集団には、祈り、戦い、踊り、詠唱などの儀式がある。そして、その儀式の違いが、過激な集団と平穏な集団の違いを生んでいるらしい。儀式はまた、文明の誕生とも深く関係する。
Japanese Author
低酸素環境で、造血幹細胞が 維持される仕組みを解明!
再生医療などへの期待が高まる幹細胞だが、まだ謎も多く残されている。めったに増殖せず、長い間維持され続ける仕組みも、その1つだ。慶應義塾大学医学部の田久保圭誉専任講師らは、造血幹細胞の維持には低酸素環境が重要であることを発見し、その分子メカニズムを突き止めた。幹細胞の維持基盤の全容解明や人工培養に向かって、道が開かれた。
News & Views
アンドロメダ銀河で見つかった不思議な平面
アンドロメダ銀河とその周囲の伴銀河(衛星銀河)を詳しく調べた結果、伴銀河が1つの大きな薄い平面上に乗っていて、アンドロメダ銀河の周りを同じ方向に回っていることが明らかになった。
インスリンとその受容体の結合
インスリンは糖尿病治療に広く使われているが、そもそも、インスリンが細胞表面にある受容体と結合するメカニズムは、不明のままであった。今回、この複合体の結晶構造解析にようやく成功し、ついに答えが得られた。
News Scan
マリファナはきっぱり有害
米国の若者に、危険な誤解が広がっている
大洪水に備える大気観測
「大気の川」の観測網が、カリフォルニアで整備中