2013年5月号Volume 10 Number 5
古代人にも動脈硬化は普通にあった!
動脈硬化はいわゆる現代病で、健康な古代人にはなかったと思われてきた。ところが、居住環境が異なる4つの古代ヒト集団のミイラをCTスキャンで調べたところ、全137体のうちの47体、つまり34%でアテローム性動脈硬化が見られたのだ。運動不足や飽和脂肪の多い食生活は血中の悪玉コレステロール値を上昇させ、アテローム性動脈硬化を起こし、動脈硬化は心筋梗塞や脳卒中などの心疾患を起こすとされる。しかし、今回の成果は、こうした“常識”が誤りである可能性を示す。心疾患を予防できるという考え自体も、あるいは非現実的なのかもしれない。
Editorials
包括的核実験禁止条約を支える国際監視システム
2月12日には北朝鮮で地下核実験、15日にはロシア上空への隕石突入と、地球を揺らす大きな爆発が相次いで発生した。この2件の出来事は、国際監視システムの重要性を再確認させるものとなった。
Research Highlights
News
火星にはかつて生命の居住環境が存在した
火星探査ローバー「キュリオシティー」が 初めて掘削した岩石サンプルを分析した結果、水中で形成された粘土を発見した。
3つ目のバンアレン帯が出現
NASAの観測衛星が、3番目のバンアレン帯の出現をとらえた。それは太陽からの衝撃波が消し去るまで、数週間持続した。
セミの翅が細菌をばらばらにする
セミの翅の表面の微細な柱状の構造体「ナノピラー」が、細菌の細胞膜を引き裂く。
時代遅れのコレステロール目標値
米国で心臓の健康に関するガイドラインの改訂が行われる。数値目標最優先の治療からの脱却を図るためだ。
ランドサット8号が引き継ぐ歴史
NASAの歴代のランドサット衛星は、1972年以来、地球環境の変化を連続的に記録してきた。今、ランドサット8号がその任務を引き継いでいく。
緊縮財政に適応したキャンパス作り
カリフォルニア大学サンフランシスコ校の新たな医療拠点は、大学の研究体制維持にも貢献しようとしている。
加速する「遺伝子解析」の医療利用
成熟期に入りつつある「ゲノム解読」技術は、医療診断に使える十分な価格と精度を持つようになった。
遺伝子診断を阻む壁
ゲノムの配列解読データの共有が進めば、希少な難病と遺伝子変異とを結びつけるチャンスが増えるはずだ。そのためのツールの開発が進められている。
遺伝学に波紋を呼ぶ環状RNA
マイクロRNAはメッセンジャーRNAと結合して遺伝子発現を抑えることが知られているが、巨大な環状RNAは、このマイクロRNAをスポンジのようにどんどん吸い取ってしまうらしい。
News Features
ニューヨークを高潮から守れ!
2012年10月、ニューヨーク市はハリケーン「サンディー」がもたらした高潮により甚大な被害を受けた。科学者と行政当局は、将来の水害から米国最大の都市を守る方法を模索している。
環境にやさしいセメント
古代ローマの時代から現代の建築構造物に至るまで、セメントは人類文明に不可欠な建築資材としてあり続けてきた。しかし、セメントの製造では大量の温室効果ガスが排出されてしまう。それを削減するには、この複雑な材料を徹底的に理解する必要がある。
Turning Point
Free access
素粒子への思いが出会いを呼んだ
宇宙の成り立ちを探る素粒子物理学者、村山斉氏。2012年には、「世界で活躍し『日本』を発信する日本人」の1人に選ばれた。思ったとおりの勉強ができずに悩んだこともあるという村山氏のターニングポイントは?
Japanese Author
ヌタウナギが教えてくれる 脊椎動物の進化
海に棲み、名前は「ウナギ」だがウナギではなく、ましてや厳密には魚類でもない。ヌタウナギには背骨がなく、顎もなく、鼻孔が1つしかない原始的な脊椎動物。進化形態学者、倉谷滋博士は、この動物に、ヒトにまでつながる進化と発生の謎を探っている。
News & Views
塩味を感知するセンサー分子
ヒトでは聴覚に関連するとされているTMC-1というタンパク質が、線虫では塩味の感知にかかわる受容体であることが示された。
超新星爆発直前の質量放出をとらえた
質量の大きな恒星が超新星爆発を起こして死ぬとき、それは非常に明るく、「宇宙の果て」からでも見ることができる。しかし、元の星がどのようなものだったかは、はっきりしないことが多い。今回、大質量星の超新星爆発の直前に起こった質量放出現象が観測され、星の生涯について知る新たな手がかりが得られた。
News Scan
天の川が甲虫の道しるべ
フンコロガシは夜、天の川を頼りに移動方向を決めている!
求む!冥王星の先の新天体
太陽系外縁天体探査機のために、新たな観測対象を募集中