2013年6月号Volume 10 Number 6
分子構造の解明に大革命!
例えば酵素分子がどんな形をしているかは、その機能を知る上できわめて重要な情報だ。これまで、そうした分子の形や構造は、ほとんどすべて、X線結晶構造解析という手法で得られてきた。この解析法が、現代科学の多くを築き上げたと言っても過言ではない。しかし、この手法には、試料を結晶化しなければいけないという条件があり、微量だったり結晶化の難しい物質は対象外だった。ところが今回、「結晶スポンジ」という特殊な材料を使って、小さな分子でも少量の試料でも、規則正しく並べてX線構造解析ができることが証明された。日本の化学者が、またまた科学の画期的な1ページを開いたのだ。
Editorials
市民がいくら銃の犠牲になっても、変わらない米国
信じられないかもしれないが、米国の政府機関では、銃を規制するための支持行為や促進活動が禁止されている。そのため、銃に関する政策や銃犯罪の防止に必要となる研究そのものさえも、公的資金で実施できない。 いったい、銃乱射事件が何回起これば、こうした状況は変わるのだろうか。
News
恐竜胚の最古の化石が見つかった!
今回見つかった化石群には、発生段階が異なる多数の個体が含まれており、また、陸上脊椎動物のものとしては最古の有機遺物も含まれていた。
自己組織化する「生きた組織」を3D印刷する
脂質で被覆した水滴を立体的に整列させて、生体組織に似た構造物を3D印刷することに成功した。
HeLa細胞のゲノムはエラーだらけ!
科学の世界で最も有名なヒト細胞がHeLa細胞であろう。今回、そのゲノム配列が解読されたが、中身はエラーだらけだった。 そのため、研究に使い続けることに疑問が生じている。
津波漂流物とともに海を渡る生物への懸念
2011年3月の東日本大震災の際にがれきとともに津波にさらわれて海に流出したさまざまな生物が、長期間外洋を漂流した後に米国の海岸に漂着している。生物学者たちは、こうした生物を追跡して、現地の生態系への影響を調べようとしている。
“ケイ素版グラフェン”に熱い視線!
シリセンはケイ素版グラフェンで、優れた特性が期待されているが、扱いにくさが問題だ。
製薬会社のデータを開示させる機運が高まる
欧州では、製薬会社の臨床試験データを開示する方向で事が進み出した。
初期宇宙の最も高精度な「地図」
宇宙望遠鏡でマイクロ波背景放射の非常に精密な分布図が作成された。これにより、宇宙の初期の発展を説明するさまざまな理論が、ふるいにかけられる。
News Features
輝く女性科学者たち
女性であることは研究に何か影響しましたか? 本格的な研究生活をスタートさせつつ、出産や育児にもチャレンジする30代の女性科学者4人に尋ねてみた。
スローな科学
速いばかりが能じゃない。世の中には、数十年あるいは数百年も続いている実験がある。科学は短距離走ばかりではなく、マラソン競技も含めた知的作業であることを、改めて思い出そう。
Japanese Author
分子モーターの 「回転する原理」を解明!
さまざまな生命現象に関与するタンパク質の中には、ナノテク顔負けの駆動装置がある。モーターのように回転するタンパク質はその代表格で、ATP合成酵素などが知られている。千葉大学大学院理学研究科の村田武士准教授は、今回、ATP合成酵素とよく似た別のタンパク質を用いて、その詳細な構造と、一方向に回転し続ける仕組みを解明した。
News & Views
“最も近い銀河”までの正確な距離
銀河系(天の川銀河)のすぐ隣にある銀河、大マゼラン雲への距離を正確に測定すれば、宇宙に満ちているダークエネルギー(暗黒エネルギー)の正体に迫る足がかりになる。今回、食連星を使う方法で誤差2.2%の値が得られた。
結晶化せずに分子構造を決定する「結晶スポンジ法」
「結晶スポンジ」と呼ばれる材料を使うと、小さな分子を規則正しく配列させることができ、サンプルを結晶化することなくX 線結晶構造解析法で分子構造を解明できることが実証された。しかも、この新しい解析法なら、サンプルもナノグラムオーダーの微量化合物で済むという。
News Scan
侵略アリどうしの戦い
オオハリアリが米国に侵入し、先着アリとの戦闘を開始
宇宙のオタマジャクシ
天の川の若き日の姿を示す奇妙な銀河たち