Research press release

生物工学:タンパク質を標的細胞に送達するデバイス

Nature

細菌を「注射器」として利用し、タンパク質をヒトの細胞に注入するように設計されたタンパク質送達システムについて報告する論文が、Natureに掲載される。この手法は、ヒトの遺伝子治療やがん治療など、将来の生物医学的療法に有用な応用が期待される。

一定の種類のタンパク質を特定の細胞種に送達するという手法は、疾患の治療法となる可能性を秘めている。一部の細菌を利用することで、宿主細胞と連動するための送達システムが進化している。その一例が、先の鋭くとがった部分を細胞膜に打ち込むことによってタンパク質を細胞に注入する小型注射器のような機構だ。しかし、こうした送達システムに関しては、ヒト細胞内で機能するのかどうか、標的細胞を認識するために用いられる機構は何なのかといった点が、ほとんど解明されていない。

今回、Feng Zhangたちは、通常は昆虫の細胞を標的とする細菌タンパク質を基にして、AlphaFoldを使って上述の送達システムに適したタンパク質の構造を予測した上で、この細菌タンパク質を改変して、培養ヒト細胞を標的とするタンパク質にした。そして、この送達システムを使って、さまざまな種類のタンパク質を高い効率でヒト細胞に送り込めるかもしれないことが明らかになった。また、Zhangたちは、このシステムを生きたマウスの細胞を標的とするように改良し、このシステムを生きた生物の体内にタンパク質を導入する目的で利用できることも実証した。

このシステムについて、Zhangたちは、将来的にヒトの治療法に用いる送達ツールとして利用される可能性があるという見解を示している。

A protein delivery system, which uses a bacterial ‘syringe’ that has been designed to inject proteins into human cells, is reported in Nature. The approach may have useful applications for future biomedical therapies in humans, such as gene therapy and cancer therapy.

The delivery of selected proteins into specific cell types has potential in the treatment of diseases. Some bacteria have evolved delivery systems to interface with host cells — for example, small syringe-like mechanisms that inject proteins into cells by driving a spike through the cell membrane. However, whether these delivery systems can function in human cells, and the mechanism that these systems use to recognize target cells, remain poorly understood.

Feng Zhang and colleagues used AlphaFold to predict the structure of a suitable bacterial protein that usually targets insect cells and modified this protein to target cultured human cells. They found that the system could be used to deliver diverse protein types into human cells with high efficiency. The authors also adapted the system to target mouse cells in live mice, demonstrating that the system could be used to introduce proteins into living organisms.

The authors suggest that this system could potentially be used as a delivery tool for human therapies in the future.

doi: 10.1038/s41586-023-05870-7

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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