2006年10月号Volume 3 Number 10
Editorial
News Features
化学は終わったのか?
化学は、あらゆる科学の分野において重要な要素である。だが、それは化学が便利な道具にすぎないことを意味しているのだろうか。それとも、化学には解決すべき「大命題」がまだ残っているのだろうか。Philip Ball が取材した。
病める海洋
大気中の二酸化炭素濃度の上昇によって、世界中の海の酸性度が高まってきている。海洋の酸性化は、海洋生物に破滅的な影響をもたらすかもしれない。Jacqueline Ruttimann が報告する。
Japanese Author
がんや神経疾患との関わりから、糖鎖の多彩な機能を探る(古川 鋼一)
「糖」と「糖鎖」は、似て非なるものである。糖は細胞活動のエネルギー源として働き、輸送や代謝経路などが詳細にわかっている。一方の糖鎖は、細胞の構成要素を分画することで「糖が長く連なった構造」が見いだされ、糖鎖として知られるようになったが、存在部位や構造、機能について未解明の部分が多かった。ところが、ゲノム科学の進展にともなって、糖鎖が果たす機能の重要性が明らかになり、その研究がポストゲノムの重要テーマに躍り出た。20 年以上にわたって、糖鎖と生命現象について研究を続ける、名古屋大学大学院の古川鋼一教授に話をうかがった。
News & Views
追悼:江橋節郎 氏(1922-2006)
細胞内カルシウムの調節的役割を明らかにした生理学者
Business News
RNA干渉の臨床応用を競う沈黙のランナーたち
遺伝子の発現を抑制する技術に対するバイオテク企業の投資がにわかに活発化している。Erika Check が調査した。
News
黒こげ海藻が蓄電器に
電気コンデンサーの性能向上は、思いもよらない材料で実現できるかもしれない。
修道女の神聖な体験と脳スキャン
神聖な体験によって、ある脳内ネットワークが活性化することが明らかになった。
球状星団は2 度「誕生」した
星はどのようにして生まれるか ー 教科書の記述は修正が必要になった。
Special Reports
倫理学者と生物学者で卵子の値段を思案する
ヒトの卵子が足りないと幹細胞研究は進まない。卵子提供の対価を女性に支払うことで卵子の供給量は増えるだろうが、そうした方策の利点や長期的な健康への影響については専門家の間でも意見が分かれている。
卵子提供の健康への影響が明らかになるのは数十年先のことかもしれない
1989 年のこと、32 歳の健康な女性が不妊症の妹に自分の健康な卵子をいくつか提供し、赤ん坊を得るチャンスを授けた。
英語でNature
必要とされる安価な体外受精
今月は、Nature の論説記事から、“Cheap IVF needed”というタイトルの記事を取り上げます。IVF とはin vitrofertilization の略で、「体外受精」のことです。体外受精などの不妊治療法は、一般に普及したとはいっても、非常に高額な費用がかかるのが現状です。とりわけ、アフリカの貧困地域においては、手の届かない技術といっても過言ではないでしょう。 アフリカの一部の地域では、子どもに恵まれない女性が悲惨な境遇に追いやられています。こうした女性たちを社会的に救うためにも、安価な不妊治療法の研究開発が求められていますが、「誤った認識(false perceptions)」のためになかなか進まないようです。どのような「誤った認識」があるのかに着目して、記事を読んでみましょう。