Letter

アフリカゾウの種における細胞質ゲノムと核ゲノムの非対称遺伝

Nature Genetics 37, 1 doi: 10.1038/ng1485

アフリカの森林に生息するゾウ(マルミミゾウ)と草原(サバンナ)を生息環境とするゾウ(アフリカゾウ)は、交雑帯により分離された別種である。異種間交雑が個体群における系統や保全の状況に影響を及ぼす可能性があることから、マルミミゾウとアフリカゾウの間の遺伝子流動をアフリカ大陸の21の地域で調査した。我々は、核ゲノムとミトコンドリアゲノムの進化の過程が異なることを示す、細胞質ゲノムと核ゲノムの非対称遺伝を見つけた。父方由来(総数205)と両親由来(総数2,123のX染色体断片)の両方の遺伝子配列は、マルミミゾウとアフリカゾウの間に強度の遺伝的分離が存在することを示唆した。しかし、現在の森林性の生息環境からは遠方に存在するいくつかのサバンナ生息地では、アフリカゾウに特異的な核ゲノム遺伝子型をもつ多くの個体が、母親から受け継いだマルミミゾウのミトコンドリアDNAを保持していた。この異常な、細胞質・核における非対称遺伝は、マルミミゾウの雌と、マルミミゾウもしくは交雑種の雄に比べて体格が大きく繁殖力が優るアフリカゾウの雄の間に、かつて交雑があったことを示唆している。交雑種の雌がアフリカゾウの雄と反復的に戻し交配したことで、マルミミゾウの核ゲノムがアフリカゾウの核ゲノムに置き換わった。森林に生息するマルミミゾウのミトコンドリアがサバンナに生息するアフリカゾウの個体群において持続的に残存している事実は、ミトコンドリアDNAのみを根拠とした進化の解釈は誤解を招くおそれがあり、ミトコンドリアゲノムには古代に起きた生息地変化の記録が保存されていることを示唆している。

目次へ戻る

プライバシーマーク制度