哺乳類ゲノムに転位性遺伝因子とDNA反復配列が多数存在することは、このような挿入が進化にともないたんに受動的に生じて存在するものなのか、それとも複雑な形質の発現に影響を及ぼしているものなのかという疑問を提示する。我々は、ショウジョウバエを用いてこの疑問の解明を試みた。ショウジョウバエでは、1つの転位性遺伝因子が複雑な形質に及ぼす効果を、管理された環境下で飼育された、遺伝的に同一の個体において評価することが可能である。本論文では、味覚受容体5a(Gr5a、Treとしても知られる)と、オーファン受容体をコードしているtrapped in endoderm 1(Tre1)との間の遺伝子間領域にPエレメントが挿入されると、栄養素の選択的吸収、寿命、飢餓や熱ストレスに対する耐性といった適応度形質が複雑で多面的な影響を受けることを明らかにする。この領域に生じた変異は、その表現型の発現に関して、インスリンシグナル伝達経路の下流構成因子に対して上位性を示す。トランスポゾンが挿入されることで、性別に特異的な効果、および性別によって逆の効果が誘発されることは、遺伝子間に存在する転位性遺伝因子が量的形質の表現型に及ぼすと考えられる効果の複雑さをさらに強調するものである。