乳がん：in situ単細胞解析から、HER2陽性乳がんにおけるPIK3CA変異とHER2の増幅が一様でないことが明らかになった

遺伝的に異なっている少数の亜集団を腫瘍内において検出することは、がんゲノム解析における重要課題の1つである。本論文では、STAR–FISH（対立遺伝子特異的PCR–FISH）という、これまでになかった単細胞解析法について報告する。本法によって、細胞膜が完全な形で保持された保存腫瘍組織の単細胞を対象に、一塩基変異とコピー数変化を同時に検出することができる。今回は本法を用いて、術前補助化学療法期間に生じたHER2陽性乳がん内のPIK3CA変異およびHER2（ERBB2）増幅の出現頻度や場所の変化が、臨床的にどのような影響を及ぼすかを調べた。まず、これら2つの遺伝的変化が必ずしも同じ細胞に存在するわけではないことが判明した。また、PIK3CA変異型細胞が、化学療法を受けていないほとんど全ての検体において少数派であることが分かった。そして術前化学療法によって、PIK3CA変異型細胞の割合が増大し、腫瘍内の遺伝的多様性が変化して（大きくなって）いた。さらに、治療に伴い、腫瘍細胞の遺伝的多様性の空間的分布に変化が生じる場合、トラスツヅマブによる補助治療後の長期にわたる予後不良と相関していた。今回得られた知見は、がんゲノム解析における単細胞を対象にしたin situ解析の有用性を裏付け、HER2を標的とした治療以前に行った化学療法が治療抵抗性を増進させている可能性を示した。