Analysis
腫瘍の中立進化:さまざまな種類のがんに共通する腫瘍の中立進化過程の特定
Nature Genetics 48, 3 doi: 10.1038/ng.3489
がんゲノムのプロフィール解析に膨大な力が注がれてきたのにもかかわらず、とてつもない量のゲノムデータを、がんの進化過程という観点から解釈することは依然として困難な作業である。本論文では、腫瘍が中立進化を経た結果、腫瘍における変異型対立遺伝子の頻度が「べき乗分布」を示すようになることを、腫瘍のバルク試料を次世代シークエンサーで解析することにより明らかにした。すなわち、中立進化による「べき乗則」が、14種類のがんの異なるコホート由来の904のがん試料のうち323の試料の場合に、極めて正確に当てはまることを見つけた。中立進化していることが確認された悪性腫瘍では、がん細胞が増殖を開始する以前に全てのクローン選択が起こっており、サブクローンの出現はその後であると考えられる。そしてその結果、パッセンジャー変異が多数出現し、腫瘍内におけるゲノムレベルの不均一性がもたらされることになる。がんゲノムの塩基配列決定データを中立説の枠組みで再度解析したところ、個々の患者における、in vivo条件下の変異率と、変異の生じる順およびタイミングの両方の算出が可能になった。今回の結果は、既存のがんゲノム配列データの解釈や、腫瘍内不均一性が機能を持つか否かの識別を目的とした、新しい方法を提示している。