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植物幹細胞:植物幹細胞の増殖を制御する遺伝学的回路における緩衝作用の進化
Nature Genetics 51, 5 doi: 10.1038/s41588-019-0389-8
植物器官が永続的に発生を繰り返すためには、植物幹細胞の増殖を精密に制御すること必要である。ペプチドリガンドのCLAVATA3(CLV3)、およびその受容体プロテインキナーゼのCLAVATA1(CLV1)は、強固に保存された負のフィードバック回路の制御範囲下で幹細胞恒常性を維持するよう働いている。シロイヌナズナ(Arabidopsis)では、CLV1の欠損が起きると、パラログの転写発現上昇によりそれが補償されるので、このCLV1パラログも恒常性に寄与している。本論文では、補償機構は、リガンドと受容体の両方に関してさまざまな系統で見られるが、中核のCLVシグナル伝達モジュールが保存されている一方で、補償の機構は種により多様であることを示す。トマトでは、転写を介したリガンドパラログ間の補償機構が見られ、古い時代に重複し、栽培化の過程で実の大きさによる選択がなされた際に関与した遺伝子が関わっている。対照的に、シロイヌナズナやトウモロコシでは、転写を介したリガンド間の補償の証拠はほとんど見つからず、受容体の補償の機構もトマトとシロイヌナズナとでは異なっていた。本論文の知見により、リガンドや受容体のパラログ間の補償は幹細胞恒常性にとって非常に重要であるが、保存されてきた発生プログラムが正常に進行するように緩衝する遺伝的機構はさまざまであることが示された。