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再生医学:ゲノムワイドスクリーニングによって、JNK–JUNシグナル伝達は多分化能の維持と内胚葉分化の回避に働いていることが明らかになった

Nature Genetics 51, 6 doi: 10.1038/s41588-019-0408-9

ヒト胚性幹細胞(ESC)やヒト人工多能性幹細胞を用いた細胞治療や創薬に大きな期待が寄せられている。しかし、幹細胞から均一な分化を誘導することは依然として難題であり、この事実は胚の初期発生の機序を解明する必要性を強調している。今回我々は、胚体内胚葉(DE)の分化を制御する因子を明らかにするため、ゲノムワイドなCRISPRスクリーニングを行った。その結果、思いがけなく、JunのN末端キナーゼ(JNK)–JUNファミリーを構成する5種類の遺伝子が、DEへの分化を抑制する極めて重要な因子であることが見いだされた。JNK–JUNシグナル伝達経路は、DEのエンハンサー領域を直接的に阻害することで作用するのではない。JUNはOCT4、NANOG、SMAD2、SMAD3と共にESCエンハンサー領域に結合し、多能性を維持することに特異的に関わっている。すなわちJUNは、ESCエンハンサー領域の無効化を妨げ、SMAD2やSMAD3のクロマチンへの結合がESCエンハンサーからDEエンハンサーへと形成し直されないようにしている。従ってJNK–JUN経路は、通常より早い段階にDE分化が起こらないように、ESCの多能性を保護している。JNKを薬理学的に直接阻害すると、DEおよびDE由来の膵臓や肺の前駆細胞の形成効率は著しく向上した。このことは、発生研究から得られた知見を再生医療に活用するという将来的な可能性に光を当てるものである。

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