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トポロジカルドメイン:転写が活発に行われているHERV-Hレトロトランスポゾンがヒト多能性幹細胞においてTAD(topologically associating domain)の境界を定める
Nature Genetics 51, 9 doi: 10.1038/s41588-019-0479-7
クロマチン構造は細胞のタイプ特異的な遺伝子調節プログラムに関与しているが、発生過程でのクロマチンリモデリングの仕組みは完全に解明されているわけではない。本論文では、ヒト多能性幹細胞(hPSC)が分化する際に起こるクロマチンの構造変化を調べることで、hPSCにおけるTAD(topologically associating domain)の形成には、霊長類特異的な内因性レトロトランスポゾンであるヒト内在性レトロウイルスサブファミリーH(HERV-H)が役割を担っていることを見いだした。これらのHERV-H配列を欠失させると、対応するTAD境界がなくなり、HERV-H配列の上流の遺伝子群の転写が低下する一方、HERV-H配列をde novo挿入すると新しいTAD境界が導入できる。HERV-H配列の転写を抑制すると境界の形成が妨げられるので、HERV-HがTAD境界を作り出す能力はその活発な転写に依存している。このような活発な転写が起こるHERV-H配列とそれに対応するTAD境界は、他のヒト科の多能性幹細胞にも見られるので、この能力はhPSCに限定されているのではないが、HERV-H配列を欠く、より遠縁の種では見られなかった。総合的に我々の結果は、細胞タイプや種に特異的なクロマチン構造を活発に形成するレトロトランスポゾンについての直接的な証拠となるものである。