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がん種横断的全ゲノム解析:がん種横断的な全ゲノム解析からLINE-1のレトロトランスポジションによって促進されたドライバー再編成が明らかになる
Nature Genetics 52, 3 doi: 10.1038/s41588-019-0562-0
あらゆるがんについて、その約半数に体細胞性のレトロトランスポゾン挿入が見られることが分かっている。今回我々は、それらが発がんで果たす役割を明らかにするために、がん種横断的全ゲノム解析(PCAWG:Pan-Cancer Analysis of Whole Genomes)の一環として、組織学的に異なる38種類のがんサブタイプにについて、2954例のがんゲノムを解析し、体細胞性レトロトランスポジションのパターンと機構を調べた。その結果、体細胞で起きた1万9166回のレトロトランスポジション事象が特定された。レトロトランスポジションは試料の35%で見られ、広範な事象タイプが見られた。long interspersed nuclear element(LINE-1:以降L1と表記)の挿入は、食道腺がんにおける最も高頻度のタイプの体細胞性構造変異であることが明らかになり、頭頸部がんと大腸がんでは2番目に頻度が高い体細胞性構造変異だった。異常なL1の挿入は、メガ塩基規模の染色体を欠失させることが可能であり、それによってがん抑制遺伝子の除去が引き起こされることもある。また異常なL1の挿入は、複雑な転座や大規模な重複を誘導することも可能である。体細胞性のレトロトランスポジションは、breakage–fusion–bridge(切断–融合–架橋)サイクルを開始させ、がん遺伝子の高レベルの増幅につながる可能性もある。これらの結果は、がんゲノムのリモデリングにL1レトロトランスポジションが役割を持ち、ヒトの腫瘍形成に対して潜在的な影響があることを明らかにしている。