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全ゲノム重複:がんの進化における全ゲノム重複と有害変化蓄積との相互作用
Nature Genetics 52, 3 doi: 10.1038/s41588-020-0584-7
全ゲノム重複(WGD)は、染色体セットの完全な倍加が引き起こされる、がんにおいてよく見られる事象である。しかし、その頻度の高さや予後との関連性の重要性にもかかわらず、WGDのがんでの進化的な選択圧はまだ調べられていない。本論文では、進化的なシミュレーションとがんの塩基配列決定データの解析を組み合わせて、がんの進化の過程で起こるWGDについて解析した。シミュレーションから、WGDがかなりの高率で生じている条件下では、WGDが選択された結果、不可逆的なラチェット様の有害体細胞変化の蓄積を低減できることが示唆された。これと一致して、肺扁平上皮がんやトリプルネガティブ乳がんなどの大規模なヘテロ接合性の消失を伴う腫瘍タイプでは、WGDがよく見られ、しかも、WGDが起こった後ではなく、WGDが起こる前に、必須遺伝子のホモ接合性の消失に対して負の選択がある証拠が見つかった。ヘテロ接合性の消失と変異の時期の解明を利用して、新しいがん抑制遺伝子の特定や、既知のがん遺伝子のより詳細な特徴付けを行えることが実証された。