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転写:細胞タイプを指定する転写の選択的Mediator依存性
Nature Genetics 52, 7 doi: 10.1038/s41588-020-0635-0
Mediator複合体は、DNA結合性転写因子からのシグナルをRNAポリメラーゼII(Pol II)に伝える。このように極めて重要な位置付けにあるにもかかわらず、ヒト細胞におけるMediatorの機構は完全には理解されていない。今回我々は、サブユニットの急速な分解と、それに対する転写反応を生体直交型の実験により読み出して結び付けることで、Mediatorが制御するPol II動態を定量化した。凝集体駆動型の転写開始モデルと一致して、低リン酸化型Pol IIの大きなクラスターは、Mediatorの分解時に急速に解体された。このとき同時に、細胞タイプを指定する転写回路の選択的で顕著な破壊が起こっており、この回路を構成する遺伝子には、非常に速いPol II代謝回転速度を持つという特徴があることが分かった。興味深いことに、他の大部分の遺伝子の転写出力は、Mediatorの急激な除去による影響をほとんど受けなかった。これらの遺伝子での転写活性の維持は、ゲノム全体でPol IIの一時停止を解除する割合を上昇させるCDK9に依存的な、予期せぬ補償フィードバックループと結び付いていた。以上により、ヒトMediatorは、細胞タイプを指定する転写ネットワークの機能を選択的に保護し、広範に働くコアクチベーターであると見なせることが明らかになった。