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前立腺がん:前立腺がんは転移プログレッションの際にエピジェネティックな発生プログラムを再活性化する
Nature Genetics 52, 8 doi: 10.1038/s41588-020-0664-8
エピジェネティックな過程が前立腺がん(PCa)の生物学的性質を支配することは、PCa細胞が前立腺マスター転写因子であるアンドロゲン受容体(AR)に依存しているということから明らかになっている。本論文では、ヒト組織由来の標本において、正常な前立腺上皮から局所的なPCaへ、さらには転移性PCaへ、という2つの状態への移行過程にある268のエピゲノムについてのデータセットを作成した。転移性PCaではAR部位が再プログラムされていたが、これはde novoに生じるのではなく、転写因子FOXA1およびHOXB13によって正常な前立腺上皮であらかじめ準備されていた。転移性がんにおいて調節配列が再プログラム化によって作動すると、潜在的な発生プログラムが乗っ取られて、前立腺の器官形成に関与する部位が利用可能になる。再活性化された調節配列の解析から、これまで知られていなかった転移特異的エンハンサーがHOXB13、FOXA1、NKX3-1で特定され、機能検証できた。さらに、前立腺の細胞系譜特異的な調節配列が、PCaリスクの遺伝率と体細胞変異密度に強く関連することが観察された。エピゲノムというレンズを通して前立腺の生物学的性質を調べることは、腫瘍プログレッションの原因となる機構を理解するための基盤を成す。