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進化:ヒトとチンパンジーの融合細胞から骨格進化の基盤となるシス調節の差異が明らかになる
Nature Genetics 53, 4 doi: 10.1038/s41588-021-00804-3
ヒトとチンパンジーはほぼ同じ遺伝子塩基配列を持つが、遺伝子発現の調節機構が異なることにより、ヒト特異的な形質が発現されると考えられている。しかし、調節機構の違いを表現型の違いに結び付けることは簡単ではない。今回我々は、細胞融合法を用いてヒトとチンパンジーの雑種である誘導多能性幹細胞を作製し、種に特異的な形質を生み出す遺伝子発現機構の違いについて研究した。四倍体雑種細胞の使用により、シス調節効果のみをトランス調節効果から分離すること、また、非遺伝的な交絡因子を制御することが可能となった。我々はこの細胞を用いて、顔面を生じる主要な細胞タイプである頭部神経堤細胞に分化させた。主要なヘッジホッグ制御遺伝子EVC2(LIMBIN)の発現がヒト遺伝子由来のものはチンパンジーのものに比べて6分の1に低下するなど、ヘッジホッグシグナル伝達経路の細胞系譜特異的な種選択的発現機構が明らかになった。EVC2の発現低下を誘導すると、ヘッジホッグシグナル伝達活性が大きく低下した。EVC2を遺伝的に欠損するマウスとヒトは、ヒトとチンパンジーの頭蓋顔面の差異と顕著な表現型の類似性を示したことから、ヘッジホッグシグナル伝達の調節における差異がヒトに特徴的な頭蓋顔面の形態形成に関与している可能性が示唆された。