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乳がん:前がん段階の乳腺の間質細胞がBRCA1を介した乳がん形成を促進する
Nature Genetics 55, 4 doi: 10.1038/s41588-023-01298-x
生殖細胞系列のBRCA1変異(BRCA1+/mut)を持つ女性は、遺伝性乳がんの罹患リスクが高い。BRCA1+/mutにおけるがんのイニシエーションは乳腺上皮の前がん性変化と関連している。しかし、BRCA1による腫瘍イニシエーションの際の上皮関連間質ニッチの役割は分かっていない。本論文では、前がん段階の乳腺の間質ニッチが、トランスに上皮増殖と変異型BRCA1による腫瘍形成を促進することを示す。ヒトの前がん段階のBRCA1+/mut保持者と非保持者の乳腺組織についての一細胞RNA塩基配列決定解析から、基底-管腔の中間的な表現型を持つ前駆細胞の増殖増加および拡大といった、上皮ホメオスタシスの明らかな変化が示された。さらに、BRCA1+/mut間質細胞は、増殖を促進するパラクリンシグナルの発現が上昇していることが分かった。特に、マトリックスメタロプロテアーゼ3(MMP3)などの腫瘍形成促進因子を産生する前がん関連線維芽細胞(pre-CAF)が発見された。MMP3は、in vivoにおいてBRCA1による腫瘍形成を促進することが知られている。総合的に我々の知見は、BRCA1+/mutの前がん段階の乳腺の間質が、上皮増殖の促進と分化が変化した管腔前駆細胞の蓄積を介して乳がんリスクを高める可能性を示している。