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コヒーシン:コヒーシンは複製のタイミングを維持して、がん遺伝子に対するDNA損傷を抑制する
Nature Genetics 55, 8 doi: 10.1038/s41588-023-01458-z
コヒーシンの機能喪失変異は、腫瘍においてしばしば観察されるが、これらの変異が腫瘍形成で果たしている役割の根底にある機構については分かっていない。今回我々は、コヒーシンのコアサブユニットであるRAD21を枯渇させると、コヒーシンの変異と同時に、ゲノム全域で大規模なDNA切断が生じ、147の遺伝子が転座ホットスポットとなることを複数のがんで明らかにした。DNA損傷の増加は、RAD21の欠失によって誘導される転写変化やループアンカーの破壊には依存していなかった。しかし、損傷によって染色体転座が誘導され、これはDNA複製の岡崎フラグメントの非対称分布と同時に起こることから、RAD21の枯渇が複製ストレスを引き起こすことが示唆され、それは複製速度の減速と停止した複製フォークの増加から明らかである。機構的には、ヒトゲノムの約30%で、RAD21枯渇後に時期尚早な複製タイミングが見られ、これは、使われていない900以上の過剰な複製起点が早期開始に至ることに起因する。それと一致して、ほとんどの転座ホットスポット遺伝子は、複製のタイミングが変化した領域に位置していた。従って我々は、コヒーシンの機能不全は、過剰なDNA複製開始を誘導することで複製ストレスの原因となり、腫瘍形成を促す可能性のあるゲノム規模のDNA損傷を引き起こすと結論する。