Author interview

メニエール病

長縄 慎二氏

掲載

メニエール病(MD)は内耳疾患の1つで、めまい発作、変動性難聴、耳鳴、耳閉感などの原因になる。MDの発症には多くの因子が関わっている。MDの特徴的兆候である内リンパ水腫(EH)は内リンパ液が内耳に過剰に蓄積する障害で、神経節細胞の損傷を起こす。内リンパ液の蓄積が多くなるとほとんどのMD患者に臨床症状が現れる。しかし、早期EHの段階で症状が現れる患者も存在する。… 続き

―― 今回のPrimer「Meniere's disease(メニエール病)」について、最大のインパクトはどこにあるとお考えでしょうか?

私は、筆頭著者である名古屋大学名誉教授(耳鼻咽喉科学)の中島務先生のご指導のもと、放射線科医として画像診断の部分を担当しました。総説ですのでインパクトという表現が適切かわかりませんが、メニエール病の歴史、疫学、病態、病理、遺伝子、症候、画像を含む各種診断法、治療、将来展望などについて、最新の知見を包含しつつ、網羅的にバランスよく記載してある点が特徴的だと思います。特に、「内リンパ水腫のMRI画像診断により、新たな診断基準を構築するべき」とする考え方を提唱した点は斬新だと自負しています。

―― 本Primerは、臨床医にとって、メニエール病の診断、治療、予防等にどのように役立ちますか?

客観的な診断方法に乏しかったメニエール病に画像診断を導入できれば、診断のみならず、治療効果のモニターや早期介入による重症化の予防が可能になると考えます。さらに、客観的な診断への道が開かれることで、この疾患への興味を喚起でき、新たな研究者の参入や病態解明の進歩も期待できると思います。

―― メニエール病領域において、残された謎はありますか?

内リンパ水腫の発生機序、そこからどのようにめまい発作が惹起されるのか、さらに神経変性がどのように引き起こされるのかといった病態の根本がまだ謎のままです。これらが解明されれば、根本治療にもつながると考えられます。

―― ご研究への思いや、若手臨床医・研究者に向けたアドバイスをお伺いできますか?

内リンパ水腫の画像診断は、名古屋大学において私たちが切り開いた領域です。そのため、当初は「追いかけるべき競争相手」がほとんどいませんでした。また、手本といえるものもありませんでした。さらに、内リンパ水腫の画像診断のゴールドスタンダードとなりうる病理所見を生前患者から得られないことから、自分たちが取得した画像が本当に正しいのか、測定した内リンパ水腫の体積率等は妥当なのかといったことが簡単に評価できないという問題もありました。このような中で、私たちは様々な方法による複数の測定結果と比較することで、妥当性をコツコツ積み上げてきました。若手の方々にとっても、一つのことを長く続けること、自分の領域のヒントを探すために視野を広く持つことが、将来の役に立つと思います。

聞き手は西村尚子(サイエンスライター)。

Nature Reviews Disease Primers 掲載論文

メニエール病

Meniere's disease

Nature Reviews Disease Primers 2 Article number: 16028 (2016) doi:10.1038/nrdp.2016.28

Author Profile

長縄 慎二

放射線科医になってすぐに、内耳領域のMRI診断についての研究を始めました。長年、メニエール病の内リンパ水腫をMRIで描出するための様々な工夫を続け、2007年に中島教授(当時)と共同で、「鼓室内ガドリニウム造影剤注入」と「3D-FLAIRという撮像法」を組み合わせた患者の内リンパ水腫描出に、世界ではじめて成功しました。その後はさらに改良を加え、本来の使用法であるガドリニウム造影剤の静脈注射により、一般臨床でも検査ができる方法を確立しました。

1987年 名古屋大学医学部卒業
1992年 ミシガン州立大学放射線科留学
2001年 ドイツマックス・プランク認知神経科学研究所留学
2004年 名古屋大学大学院医学系研究科 量子医学分野助教授
2006年 同 教授
2015年 名古屋大学 脳とこころの研究センター センター長併任

名古屋大学大学院医学系研究科 量子医学分野

名古屋大学 脳とこころの研究センター

長縄 慎二氏

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