定量的単細胞イメージングで判明した、1つの細菌細胞集団におけるATP濃度の相違
Diversity in ATP concentrations in a single bacterial cell population revealed by quantitative single-cell imaging
2014年10月6日 Scientific Reports 4 : 6522 doi: 10.1038/srep06522
近年の単一細胞を対象にした定量分析によって、細胞ごとの遺伝子発現レベルに大きな違いがあることが明らかになった。この発現量の違いは各細胞の生理活性や細胞運命に影響を及ぼす可能性がある。これに対し、大部分の代謝産物では、その濃度は多数の細胞のアンサンブル平均を取ることでのみ測定可能だった。アデノシン三リン酸(ATP)は極めて重要な代謝産物で、多くの細胞内反応のエネルギー源である。これまで、1つ1つの細胞におけるATPの絶対濃度についての定量測定は、信頼性の高い方法がなかったために行われていない。本研究では、遺伝子操作によって、レシオ測定式ATP特異的蛍光バイオセンサー「QUEEN」を新たに開発した。QUEENは、円順列変異の作製によって改変された蛍光タンパク質と細菌ATP結合タンパク質から構成されている。以前我々が開発したFRET型蛍光ATPバイオセンサー(Imamura et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2009)とは異なり、QUEENは細菌の増殖速度の変化に原則的に影響を受けなかった。重要なことに、QUEENの計測データから示された多数の細菌細胞の平均細胞内ATP濃度は、ホタルのルシフェラーゼを用いた分析から求めた濃度とほぼ等しかった。すなわち、QUEENは細菌細胞内ATP絶対濃度の定量に適している。最後に、単一細胞由来のQUEENシグナルをイメージングによって計測した。その結果、同一培養条件下の遺伝学的に同一な大腸菌細胞集団であっても、細胞内ATPの絶対濃度は各細胞間で著しく異なることが明らかになった。
柳沼 秀幸1,2,3,4, 河合 信之輔5,6, 田端 和仁1,7, 冨山 佳祐2, 垣塚 彰8, 小松崎 民樹5, 野地 博行1,2,3 & 今村 博臣8,9
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