チンパンジー(Pan troglodytes)による顔の効率的な探索
Efficient search for a face by chimpanzees (Pan troglodytes)
2015年7月16日 Scientific Reports 5 : 11437 doi: 10.1038/srep11437
顔は、社会生活を送るヒトやヒト以外の霊長類にとって極めて重要な視覚刺激の1つである。近年の比較認知研究の進展から、チンパンジーとヒトは、顔の情報を全体もしくは目・鼻・口などのパーツの空間的配置で捉えるという特別なやり方で処理していることが明らかになっている。どちらの種も、顔を倒立画像で提示すると知覚や認知の効率が低下する「顔の倒立効果」が見られる。さらに、近年の研究で、ヒトは顔以外の多数の画像と共に提示されたヒトの顔を素早く見つけ出せることが明らかになっている。今回われわれは、チンパンジーが、顔以外の画像と共に提示されたチンパンジーの顔を極めて効率的に見つけ出せることを報告する。この効率的な探索は自分と同じ種の顔に限定されてはいなかった。実験に参加したチンパンジーたちは、ヒトの成人や赤ん坊の顔も効率的に見つけ出したが、ニホンザルの顔は効率的に見つけ出せなかった。さらなる実験で、正面の顔のほうが横顔よりも容易に見つけ出せることが分かり、このことから、互いに目を合わせるアイコンタクトの重要性が示唆された。チンパンジーは、バナナの写真も顔と同じくらい効率的に見つけ出したが、追加で行ったテストから、バナナは主に低次の特徴(色など)によって見つけ出していることがはっきり示された。顔の効率的な検出は倒立提示によって妨げられたことから、ヒトでもチンパンジーでも、顔に特異的な情報処理が、顔の効率的な検出に不可欠な要素になっていると考えられる。この結論は、サリエンシー(顕著性)モデルを用いた単純なシミュレーション実験によって裏付けられた。
Masaki Tomonaga & Tomoko Imura