抗精神病薬が起こす高血糖のビタミンDによる防止:データマイニングによる仮説導出と実験による分子メカニズムの解明
Prevention of antipsychotic-induced hyperglycaemia by vitamin D: a data mining prediction followed by experimental exploration of the molecular mechanism
2016年5月20日 Scientific Reports 6 : 26375 doi: 10.1038/srep26375
非定型統合失調症治療薬は高血糖のリスク上昇と関連付けられており、そのため臨床での使用が制限されている。本研究では、抗精神病薬が起こす高血糖の基盤にある分子メカニズムの解明を目指した。我々はまず、米国FDAの有害事象データベースAdverse Event Reporting System(FAERS)において、組み合わせることで非定型抗精神病薬の高血糖リスクが低減するような併用薬剤を探索した。その結果、FAERSにおいて抗精神病薬クエチアピンが起こす糖尿病関連の有害事象の発生が、ビタミンD類似体の併用によって有意に減少していることを見いだした。マウスを使った実験で検証したところ、クエチアピンは実際にインスリン抵抗性を生じ、この抵抗性は食餌へのコレカルシフェロール(ビタミンD3)の補充によって緩和されることが明らかになった。さらに、これに関連するシグナル伝達経路と遺伝子発現のデータベース解析から、インスリン受容体の下流で働く重要な遺伝子Pik3r1の発現がクエチアピンによって低下することが予測された。そこで、この遺伝子にコードされるホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)のシグナル伝達経路に注目して調べたところ、クエチアピンによるPik3r1のmRNA発現低下は、骨格筋へのコレカルシフェロール投与によって回復することが分かった。また、インスリンによって促進されるC2C12筋管細胞へのグルコース取り込みは、クエチアピンの存在下で抑制され、カルシトリオール(活性型ビタミンD3)を同時投与すると、この取り込み抑制がPI3Kに依存する形で解消されることも明らかになった。総合すると、これらの結果は、ビタミンDを同時投与することでPI3K機能がアップレギュレーションされて、抗精神病薬が起こす高血糖とインスリン抵抗性を防止できることを示唆している。