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Nature Computational Science に掲載された一次研究論文(Articles および Letters)について、その概要を日本語で紹介しています。
Article: 都市におけるベクトルベースの歩行者ナビゲーション
Vector-based pedestrian navigation in cities
doi:10.1038/s43588-021-00130-y
GPSによる歩行者の軌跡を分析した結果、(1)出発地から目的地までの距離が長くなるほど最短経路から外れやすくなることと、(2)出発地と目的地を入れ替えると、選択される経路が統計的に異なることが明らかになった。人は往路と復路で異なる経路を選ぶ傾向があるが、こうした傾向は、究極的にはこのモデルによって説明できる。
Article: パンデミック前とパンデミック中の差分的な有害事象の人口規模での特定
Population-scale identification of differential adverse events before and during a pandemic
doi:10.1038/s43588-021-00138-4
大規模な患者安全データを分析し、報告の軌跡と薬物の干渉という交絡因子を除去するためのアルゴリズム的アプローチを開発した。このようなアプローチは、薬物の安全性の人口統計学的格差を調べ、パンデミック時に危険にさらされる患者を特定するために、効果的に用いることができる。
Article: 推論をシミュレートする説明可能なニューラルネットワーク
Explainable neural networks that simulate reasoning
doi:10.1038/s43588-021-00132-w
著者らはニューラルシステムが認知機能を符号化する方法を実証し、提案したモデルを用いて、説明可能で、記号推論とドメイン一般化が可能な、ロバストでスケーラブルな深層ニューラルネットワークを訓練する。
Article: 深層拡散MRIトラクトメトリーを用いた個人の微細構造異常の検出
Detecting microstructural deviations in individuals with deep diffusion MRI tractometry
doi:10.1038/s43588-021-00126-8
著者らは拡散磁気共鳴画像トラクトメトリーデータのためのブラウザベースの異常検出フレームワーク「Detect」を提案する。このツールは、深層オートエンコーダーを用いて健康な実験参加者から得た脳微細構造の規範的特徴を利用し、個人レベルで異常を検出する。
Article: SARS-CoV-2パンデミック下の入院治療に関する国の最適な優先順位決定方針
Optimal national prioritization policies for hospital care during the SARS-CoV-2 pandemic
doi:10.1038/s43588-021-00111-1
パンデミック下の現在、各国はCOVID-19患者を優先的に入院させる方針を採用している。著者らがこれに替えて提案するオープンソースの枠組みでは、すべての疾患と患者のための入院治療を最適にスケジューリングすることで、全体の生存年を増やすことができる。
Article: スケーラブル光学習演算子
Scalable optical learning operator
doi:10.1038/s43588-021-00112-0
光コンピューティングは高速計算を約束するが、非線形情報処理については課題がある。本Articleでは、機械学習タスクを実行できる、スケーラブルでエネルギー効率の高い非線形光コンピューティングの枠組みを実証する。
Article: ディープグラフニューラルネットワークを用いたタンパク質モデルの高速かつ効果的な精密化
Fast and effective protein model refinement using deep graph neural networks
doi:10.1038/s43588-021-00098-9
ディープグラフニューラルネットワークは、予測されたタンパク質モデルを、少ない計算資源で効率よく精密化することができる。その精度は、時間のかかるコンフォメーションサンプリングに依存する物理ベースの有力な手法に匹敵する。
Resource: ニューラルネットワークアーキテクチャーを用いた遺伝子調節ネットワークのモデリング
Modeling gene regulatory networks using neural network architectures
doi:10.1038/s43588-021-00099-8
著者らは、遺伝子調節ネットワーク(GRN)を明示的にモデル化することによりシングルセルRNAシーケンシング(scRNA-seq)データを解析するディープラーニングモデルを提案する。このモデルは、GRN推論、scRNA-seq解析、シミュレーションなどさまざまなタスクにおいて、最先端の手法を凌駕している。
Article: マルチオミクス解析における、公にされず、対処もされていない、無視された課題
Undisclosed, unmet and neglected challenges in multi-omics studies
doi:10.1038/s43588-021-00086-z
生物学的試料の理解を深め、分子間相互作用を推測するために、マルチオミクス解析が利用されることが増えてきている。しかし、マルチオミクスデータを最大限に活用し、誤った結論を導かないようにするためには、まだいくつかの課題に取り組まなければならない。
Resource: D4フォーマットと4ツールによる量的ゲノミクスデータの効率的な解析と保存の両立
Balancing efficient analysis and storage of quantitative genomics data with the D4 format and d4tools
doi:10.1038/s43588-021-00085-0
ゲノミクスデータセットのためのD4フォーマットは、比較的低分散の配列被覆度にもとづく適応的符号化戦略を採用している。この符号化は、生物学研究のためにこれらのデータセットに対してクエリを実行する速度を向上させると同時に、既存のフォーマットよりも優れた、または同等のファイルサイズも実現する。
Article: 希少な細胞集団の検出を目的とした単一細胞多様体保存的特徴選択法
Single-cell manifold-preserving feature selection for detecting rare cell populations
doi:10.1038/s43588-021-00070-7
非冗長な特徴を選択することで希少な細胞集団の検出、追跡研究の設計および標的パネルの作成に役立つ、単一細胞データ解析のための多様体保存的特徴選択法を開発した。
Perspective: デジタルツインを職人技から産業へとスケールアップする
Scaling digital twins from the artisanal to the industrial
doi:10.1038/s43588-021-00072-5
幅広い産業分野や研究分野でデジタルツイン技術の開発が急速に進んでいる。しかし、このような技術が、より広く、より着実に.採用されるためには、計算科学コミュニティーがさまざまな課題に取り組んでゆく必要がある。
Resource: ハイスループット材料探索のための結晶学コンパニオンエージェント
Crystallography companion agent for high-throughput materials discovery
doi:10.1038/s43588-021-00059-2
結晶学コンパニオンエージェントは、有機および無機材料の粉末X線回折データの自律的特性評価を可能にする。
Resource: barcodetrackRを用いたクローン追跡データの分析
Interrogation of clonal tracking data using barcodetrackR
doi:10.1038/s43588-021-00057-4
Rパッケージ「barcodetrackR」は、クローン追跡データの解析と可視化を容易にし、プログラミング経験のない研究者でもさまざまな定量ツールを利用できるようにするグラフィカル・ユーザー・インターフェースを備えている。
Article: 超解像顕微鏡法のための最適輸送による共局在化
Colocalization for super-resolution microscopy via optimal transport
doi:10.1038/s43588-021-00050-x
誘導放出抑制(Stimulated Emission Depletion:STED) 顕微鏡法は、回折限界を超える解像度での撮像を可能にする。ここでは、高解像度STED画像における高分子の分布を解析するための最適輸送共局在化を提案する。
Review Article: 機械学習による細胞の不均一性と遺伝子調節の解読
Machine learning for deciphering cell heterogeneity and gene regulation
doi:10.1038/s43588-021-00038-7
膨大なデータセットが利用可能になったことで、遺伝子調節やエピジェネティックな機構による制御を体系的に研究することが可能になった。本Reviewでは、こうしたデータセットから効果的に知識を抽出するために用いられる最新の計算手法を紹介し、検討する。
Article: 手続き型結合の利用によるGPU加速脳シミュレーションの大規模化
Larger GPU-accelerated brain simulations with procedural connectivity
doi:10.1038/s43588-020-00022-7
スパイキングニューラルネットワークのシミュレーションは非常にメモリー集約的であるため、大規模な脳シミュレーションは高性能のコンピューターシステムでしか実施できない。KnightとNowotnyは、手続き型結合を用いることで、こうしたモデルのメモリー・フットプリントを大幅に削減することができ、標準的なGPU上で走らせることが可能になると提案する。
Perspective: 地球システム科学のデジタル革命
The digital revolution of Earth-system science
doi:10.1038/s43588-021-00023-0
コンピューター科学の進歩により、この数十年で、天気と気候の予測は大きな進展を見せた。新しい技術の登場は、こうした進展に課題を突きつける反面、この分野に新たな発展の機会ももたらす。
Perspective: データサイエンスにおける因果関係を擬似実験により定量する
Quantifying causality in data science with quasi-experiments
doi:10.1038/s43588-020-00005-8
観測データから因果関係を推定することは困難であるが、擬似実験は、実世界のさまざまな問題に適用できるもっともらしい仮定を用いた因果推論手法を提供する。
Review Article: コンピューターを利用した既存薬再開発戦略の推進にCOVID-19パンデミックの教訓をいかす
Lessons from the COVID-19 pandemic for advancing computational drug repurposing strategies
doi:10.1038/s43588-020-00007-6
既存薬再開発のための計算科学的アプローチは、パンデミック下における治療法の特定を加速することができる。このReviewでは、COVID-19パンデミック下におけるコンピューターを用いた既存薬再開発について論じ、将来のパンデミックの際に、より効果的なアプローチにするための戦略を提案する。
Brief Communication: 音声制御量子化学
Voice-controlled quantum chemistry
doi:10.1038/s43588-020-00012-9
音声ベースの技術を用いて量子化学の質問に数秒で答えるChemVoxは、コミュニティーがこうした複雑な質問をすることを容易にする。
Article: 多忠実度データから秩序・無秩序材料の特性を学習
Learning properties of ordered and disordered materials from multi-fidelity data
doi:10.1038/s43588-020-00002-x
多忠実度のグラフネットワークは、低忠実度の大規模な特性データセットから材料の効果的な表現を学習し、これを利用して、秩序・無秩序結晶のバンドギャップや分子のエネルギーなどの高忠実度の特性を正確に予測することができる。
Article: 高エントロピー合金のコンピュテーショナル・モデリングおよびデザインの高速化
Accelerating computational modeling and design of high-entropy alloys
doi:10.1038/s43588-020-00006-7
進化ベースのアルゴリズムは、指数関数的な探索空間上での複雑な固溶体合金のモデリングを実用的な時間内で可能にし、そうした高エントロピー合金の材料設計を加速する。
Article: 遺伝子発現の安定性を高める戦略としての隠れたスイッチの安定的な維持
Stable maintenance of hidden switches as a strategy to increase the gene expression stability
doi:10.1038/s43588-020-00001-y
自然選択の下で陳腐化した表現型転換能力が安定的に維持されていることは、遺伝子発現の安定性の高さの選択によって説明できることが、コンピューター・シミュレーションによって示された。
Article: アルツハイマー病Aβペプチドの反応速度論的アンサンブル
A kinetic ensemble of the Alzheimer’s Aβ peptide
doi:10.1038/s43588-020-00001-y
ソフトなマルコフ状態モデルに基づくアプローチは、無秩序なタンパク質の解釈可能な反応速度論的アンサンブルを構築することができる。
Article: がんにおいて大きな摂動を受けたサブネットワークを効率的かつ効果的に同定する方法
An efficient and effective method to identify significantly perturbed subnetworks in cancer
doi:10.1038/s43588-020-00009-4
FDRnet法は、機能的に同種のサブネットワークの検出、遺伝子の偽発見率の制御、計算複雑性の扱い方など、がんの経路分析におけるいくつかの問題に対処することができる。