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構造生物学:完全な呼吸鎖複合体Iの結晶構造

Nature 494, 7438 doi: 10.1038/nature11871

複合体Iは、呼吸鎖の最初に位置する、鎖中で最大の酵素で、NADH:ユビキノン電子伝達とプロトン輸送を共役することにより、細胞のエネルギー産生に中心的な役割を果たしている。複合体Iはまた、よく見られるヒト神経変性疾患の多くに関係している。今回我々は、高度好熱菌Thermus thermophilus由来の完全で無傷状態にある複合体Iの、3.3 Å分解能での結晶構造を初めて報告する。536 kDaの複合体の構造は、16個の異なるサブユニットからなり、全部で64本の膜貫通ヘリックスと9個の鉄硫黄クラスターが含まれる。Nqo8(ヒトではND1)サブユニットの主要部の折りたたみは、意外にも対向輸送体様のサブユニットからなるハーフチャネルに類似している。その近傍にある小型のサブユニットが、連結した第二のハーフチャネルを形成しており、3つの対向輸送体様サブユニット中のチャネルに加えて、第4番目のプロトン輸送経路がこれによって完成されている。キノン結合部位は、異例なほど長くて狭く、囲われている。キノンの頭部はこのチャンバー(反応室)の深くなっている末端の、鉄硫黄クラスターN2の近くに結合している。このチャンバーが、電荷を持つ残基からなる「じょうご」によって第4番目のチャネルと連結していることは注目すべきである。この連結は、電荷を持つ残基や極性残基からなる柔軟な中央軸として、膜ドメイン全体にわたって続いており、おそらくコンホメーション変化の伝達に主導的な役割を担っていて、こうした働きは共役する要素によって補助されている。今回得られた構造から、膜外にある、独特のキノン反応チャンバーにより、4つの対向輸送体様ドメイン中で協同的に起こる長距離コンホメーション変化を酸化還元エネルギーによって駆動できるようになり、その結果として反応1サイクルごとに4個のプロトンが輸送されると考えられる。

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