Letter

進化:絶滅からの進化的救済は低速の環境変化が条件である

Nature 494, 7438 doi: 10.1038/nature11879

生物個体群の絶滅速度は、環境変化の速度が上昇する場合には加速すると予測されている。ストレスが高まるような条件に置かれた個体群が、表現型に適切な可塑性を持たなかったり、より適した生息域に移動できなかったりする場合には、遺伝的変化が唯一の絶滅回避法になると考えられる。絶滅からの進化的救済が起こるのは、自然選択によって個体群内にストレス耐性の高い遺伝的変異体の数が増える場合である。いくつかの実験的研究から、環境変化の速度が遅いほど個体群の適応度が高まるか、もしくは絶滅が減少することが明らかにされている。しかし、進化的救済の基盤となる遺伝的変化は、これまでほとんど着目されてこなかった。本論文では、進化の軌跡の一部が低速の環境変化を条件とすることを明らかにする。我々は、抗生物質リファンピシンの濃度がさまざまな速度で上昇する条件の下で、数百の大腸菌(Escherichia coli)個体群を進化させた。続いて、低速の環境変化の下で進化した分離株に由来する変異の組み合わせのすべてを遺伝子組換えで作り出した。これらの遺伝子組換え株の適応度をさまざまな薬剤濃度で評価した結果、急激な環境変化の下では特定の遺伝子型が進化的に生じにくいことが明らかになった。環境の急激な悪化は、個体群の大きさを縮小させて変異の機会を狭めるだけでなく、進化的選択肢としての変異群をも排除してしまう可能性がある。人間の活動が環境をかつてないほど急速に変化させているため、環境変化の速度がどのようにして進化的救済の個体群動態的な基盤と遺伝的な基盤の両方に影響を及ぼすかを解明することはきわめて重要である。

目次へ戻る

プライバシーマーク制度