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神経科学:高濃度の塩は嫌悪味覚経路を動員する

Nature 494, 7438 doi: 10.1038/nature11905

舌では、異なる種類の味覚受容細胞が甘味、酸味、苦味、塩味、うま味という5つの基本的味覚を検知している。これらの中で苦味と酸味刺激は本質的に嫌悪性であるのに対して、甘味とうま味は食欲をそそり、一般に動物を引きつけるものとなっている。対照的に、塩味は、本質的に食欲をそそる刺激だが、濃度が上昇するにつれて、強力な嫌悪性刺激へと根本的に変化するという独自の性質を持つ。この好ましいとまずいという刺激のバランスが、適切な塩分摂取量の維持を助け、体液と電解質の恒常性の重要な部分となっている。我々は以前、塩化ナトリウムに対する食欲刺激応答が上皮型ナトリウムチャネルENaCを発現する味覚受容細胞によってもたらされることを示したが、塩に対する嫌悪反応の細胞基質は不明であった。今回我々は、高濃度の塩の拒絶にかかわる細胞および分子基盤について調べた。高濃度の塩は、酸味および苦味を感知する細胞の活性化によって、2つの主要な嫌悪味覚経路を動員することがわかった。また、これらの経路の遺伝的サイレンシングにより高濃度の塩に対する嫌悪行動は消失するが、塩に引きつけられる行動は障害されないことも明らかになった。特に、塩味を嫌う経路を欠損したマウスは、きわめて高濃度の塩化ナトリウムに対してさえ、ものともせずに持続的関心を示すことは注目すべきである。我々は、酸味と苦味を検知する神経回路の「本来の目的から転用」が、高濃度の塩がロバストな嫌悪行動を確実に引き起こす手段として進化し、健康に有害と思われる作用を防止していると考えている。

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