微生物学:ヒト寄生虫マンソン住血吸虫の成体体性幹細胞
Nature 494, 7438 doi: 10.1038/nature11924
住血吸虫症は、最も一般的なヒト寄生虫病の1つであり、世界中で2億人以上が罹患している。住血吸虫症の原因となる病原体は、宿主の血管系内に生息・産卵する扁形動物門に属する吸虫類[住血吸虫(Schistosoma)]である。虫卵は宿主組織にとどまって炎症応答を引き起こし、それが病的状態の主因となっている。この寄生虫はヒト宿主内で数十年間にわたって生息・生殖できるので、その長命を促進する機構の解明はきわめて重要である。新成細胞と呼ばれる成体の多能性幹細胞は、長命で自由生活性の扁形動物(例えば、プラナリア)で長期にわたる恒常的組織維持を推進し、また、新成細胞様細胞はいくつかの寄生性条虫類に存在することが示されているが、いずれかの吸虫種に同様の細胞種が存在するかどうかについてはほとんどわかっていない。本論文では、マンソン住血吸虫(Schistosoma mansoni)の新成細胞様細胞の集団について報告する。これらの細胞は、プラナリアの新成細胞に形態学的に類似しており、増殖能および複数の胚葉由来の細胞への分化能も共通していた。利用可能なゲノムリソースおよびRNA塩基配列を基盤とした遺伝子発現プロファイリングを使って、これらの住血吸虫の新成細胞様細胞が、繊維芽細胞増殖因子受容体オルソログを発現していることが明らかになった。さらに、RNA干渉を用いて、この遺伝子がこれらの新成細胞様細胞の維持に必要であることが実証された。これらの知見は、自由生活性の祖先動物が共有していた発生戦略が現代の住血吸虫に適合したことが、おそらく長命の偏性寄生生物としてのマンソン住血吸虫の成功に寄与したことを示している。これらの新成細胞様細胞の機能を解読する今後の研究は、深刻な病気を引き起こすこれらの寄生虫の生物学的特性を理解するために重要な意味を持つと考えられる。