構造生物学:テトラエーテル脂質シンターゼの発見、構造と作用機構
Nature 609, 7925 doi: 10.1038/s41586-022-05120-2
アーキアは、イソプレノイドをベースとするエーテルが結合した膜脂質を合成しており、それらによって高温や高い塩分濃度、低pH値や高pH値のような極端な環境条件に耐えることができる。Methanocaldococcus jannaschiiなどの一部のアーキアでは、このような脂質は1つのグリセロリン脂質中の2本の脂質尾部末端間で炭素–炭素結合を形成することによってさらに修飾されて大員環アーキオールを、あるいは2つのグリセロリン脂質の2つの脂質尾部末端間で2つの炭素–炭素結合を形成することによってさらに修飾されて大員環グリセロールジビフィタニルグリセロールテトラエーテル(GDGT)を作り出す。GDGTは、炭素原子40個を含む脂質鎖(ビフィタニル鎖)を2個含んでおり、これらは膜の外葉内葉の両方にわたっていて、極限環境に対する安定性を増強している。このような特殊化した脂質がどのようにして形成されるのかは、数十年間にわたって謎とされてきた。その反応には、完全に不活性なsp3混成軌道を持つ2つの炭素中心の共役が必要であり、これは我々の知る限りでは、自然界で観察されたことがない。今回我々は、M. jannaschii由来のmj0619の遺伝子産物が、ラジカルS-アデノシルメチオニン酵素をコードしていて、これによって大員環アーキオールとGDGT膜脂質の両方の合成の間のビフィタニル鎖形成が行われることを示す。この酵素の構造から、4つの金属補因子、すなわち3個の[Fe4S4]クラスターと1個のルブレドキシン様単核鉄イオンの存在が明らかになった。in vitroでの機構研究により、Csp3–Csp3結合形成が完全に飽和した基質(アーキア脂質)で起こり、基質の炭素と[Fe4S4]クラスターのうちの1個の硫黄の間の中間結合が関与していることが示された。我々の結果は、テトラエーテル形成につながる生合成経路を確立しただけでなく、GDGTをベースとする古気候学インデックスでのGDGTの使用も改善するものだ。