Volume 32 Number 9

注目のハイライト

その他のハイライト

特集: RNA塩基配列解読の精度管理(SEQC)

最近のENCODEプロジェクトの結果によれば、ヒトゲノムの70%以上が転写されるが、全てが同じタイプの細胞で起こることは絶対にないといい、自然界には長鎖RNA、低分子RNA、マイクロRNA、さらには環状RNAまで、さまざまなRNAが見いだされている。このように著しく多様な転写物を研究するために数多くの手法が開発されているが、その中で最も網羅的で強力なものがハイスループットのRNA塩基配列解読(RNA-seq)である(News and Views, p. 882)。このRNA-seq、特に大規模共同研究でのRNA-seqの利用が、今回の「RNAの塩基配列解読の品質管理(SEQC)」特集のテーマである。

この特集で掲載する5編の論文のうちの3編では、SEQCプロジェクトの研究成果が報告されている。SEQCプロジェクトは、実験室横断的なRNA-seqデータの比較可能性の評価とともに、さまざまな塩基配列解読プラットフォームとデータ解析法の評価およびそれとDNAマイクロアレイとの比較性能評価を目的とし、米国食品医薬品局(FDA)のマイクロアレイ精度管理(MAQC)コンソーシアムによって推進されている。

このプロジェクトの主な結果は、RNA-seqを用いてスプライスジャンクションの検出と差次的遺伝子発現の解析(発現亢進遺伝子と発現低下遺伝子の特定)を行う複数の研究グループにおいて、適切なバイオインフォマティクス的方法を利用すれば、再現性のある確かな結果が得られることを明らかにしたが、絶対的遺伝子発現量の計測とさまざまな転写物アイソフォームのプロファイリングが課題として残っている(Article, p. 903)。ABRF(Association of Biomolecular Resource Facilities;生体分子リソース施設協会)による独立した研究では、MAQCの試料を用いて補完的解析が行われたが、長い塩基配列を解読するシーケンサーと半導体シーケンサーが使用され、異なるRNA調製プロトコルの評価も行われた(Article, p. 915)。特筆すべきは、分解したRNA試料によるRNA-seqに有効なプロトコルをABRFが明らかにしたことで、これがRNA-seqの臨床応用に重要なホルマリン固定パラフィン包埋組織のトランスクリプトーム解析に新しい可能性を開いている。

RNA-seqとマイクロアレイとで遺伝子発現計測結果の一致率を評価することは、この分野のもう1つの重要な問題であり、それは古いマイクロアレイデータとRNA-seqデータとの比較で特に重要性を増す。SEQCプロジェクトの第2の論文は、有害化学物質に曝露されたラットの肝試料を用いる遺伝子発現解析に関するもので、RNA-seqデータとマイクロアレイデータの一致率が化学物質によって誘起された撹乱の強度に依存することが判明した(Article, p. 926)。

複数のRNA-seqデータセットの比較を適正に行うには、塩基配列解読の実施施設、機器、プロトコルの違いによる偏りを処理するために正規化を必要とする。SEQCプロジェクトの第3の論文にはさまざまな正規化法の評価が示され、複数の実施施設に試料を配布するように計画された試験に有効なものも明らかにされている(Analysis, p. 888)。外部からスパイクイン対照RNAを添加して各試料に混入させれば正規化が容易に行われると考えるのはもっともであるが、実際には、アッセイの偏りがスパイクインRNAに及ぼす影響が試料中の他のRNAと異なる場合がある。このことからスパイクインデータ内のアッセイの偏りを処理する初めてのアルゴリズム的方法を開発する必要が生じた(Analysis, p. 896)。以上を総合すると、こうした正規化研究は、スパイクインを含む試料のデータを評価および可視化するERCC(External RNA Control Consortium;外部RNA標準コンソーシアム)の新しいツール(Munro et al. Nat. Commun.、近刊)とともに、スパイクイン対照を利用しやすいものにすると考えられる。

多くの課題が残されているが、今回報告された施設横断的な多プラットフォーム研究は、探索研究と臨床使用を目的とする大規模コホートのRNA-seq解析に向けた第一歩となる(News and Views, p. 884)。将来的には、ロボット工学の新たな展開や「サービスとしてのライブラリー作製」がRNA-seqの再現性を向上させるための戦略となることが考えられ(News and Views, p. 882)、「意義不明の転写物」のような新しい概念を定義することによって臨床解析に存在するゲノムの「意義不明の変異」を補完する必要が生ずる可能性もある(News and Views, p. 884)。

News & Views

Perspective

SEQCコンソーシアムによるRNA塩基配列解読の正確性、再現性および情報量の包括的評価

A comprehensive assessment of RNA-seq accuracy, reproducibility and information content by the Sequencing Quality Control Consortium p.903

doi: 10.1038/nbt.2957

ABRF次世代塩基配列解読試験のRNA-seqによるトランスクリプトームプロファイリングの複数プラットフォーム評価

Multi-platform assessment of transcriptome profiling using RNA-seq in the ABRF next-generation sequencing study p.915

doi: 10.1038/nbt.2972

RNA-seqとマイクロアレイのデータの一致率は化学的処理および転写物量に依存する

The concordance between RNA-seq and microarray data depends on chemical treatment and transcript abundance p.926

doi: 10.1038/nbt.3001

Computational Biology

対照遺伝子または試料の因子分析を用いるRNA塩基配列解読データの正規化

Normalization of RNA-seq data using factor analysis of control genes or samples p.896

doi: 10.1038/nbt.2931

Editorial

News

最初のPD-1阻害剤が楽々とゴールを通過

First PD-1 inhibitor breezes across finish line p.847

doi: 10.1038/nbt0914-847

ウサギ乳由来の遺伝性血管浮腫治療薬ルコネスト

Rabbit milk Ruconest for hereditary angioedema p.849

doi: 10.1038/nbt0914-849d

ロシュ社、RNA薬のサンタリス社を買収

Roche snaps up RNA-medicines firm Santaris p.849

doi: 10.1038/nbt0914-849c

ハーバード大学から臓器オンチップの別会社

Organs-on-chips Harvard spinout p.849

doi: 10.1038/nbt0914-849b

エボラ出血熱の大流行:少なすぎて間に合わないバイオ医薬品

Biotech drugs too little, too late for Ebola outbreak p.849

doi: 10.1038/nbt0914-849a

CAR-T細胞療法が画期的治療薬に指定

CAR-T cell therapy gets breakthrough status p.851

doi: 10.1038/nbt0914-851b

NCATSの薬物候補が最初の買い手を獲得

NCATs drug candidate attracts first buyer p.851

doi: 10.1038/nbt0914-851c

サノフィ社、吸入型インスリン製剤アフレッザの発売を推進

Sanofi to propel inhalable insulin Afrezza into market p.851

doi: 10.1038/nbt0914-851a

画期的なBTK阻害剤インブルビカをCLL用に承認

First-in-class BTK inhibitor Imbruvica gets CLL approval p.852

doi: 10.1038/nbt0914-852a

グーグル・ベンチャーズ社がロンドンにオフィスを開設

Google Ventures launches London office p.852

doi: 10.1038/nbt0914-852b

HDAC阻害剤の臨床化の舵を取る小規模バイオ企業

Small biotech steers HDAC inhibitor to clinic p.853

doi: 10.1038/nbt0914-853

世界の1か月

Around the world in a month p.854

doi: 10.1038/nbt0914-854

NIHの生体電子工学プログラムSPARC

Bioelectronics SPARC at NIH p.855

doi: 10.1038/nbt0914-855b

FDA、研究室で開発した検査の管理を推進

FDA pushes for control over laboratory-developed tests p.855

doi: 10.1038/nbt0914-855a

米国の経路へ少しずつ入り始めたバイオ後発薬

First biosimilars trickle into US pathway p.855

doi: 10.1038/nbt0914-855c

ノバルティス社、グーグル社のスマートコンタクトレンズ開発に参加

Novartis signs up for Google smart lens p.856

doi: 10.1038/nbt0914-856

ビタミンAスーパーバナナをヒトで試験

Vitamin A Super Banana in human trials p.857

doi: 10.1038/nbt0914-857

RAC、ついに遺伝子治療の監視を緩和

RAC to finally relax gene therapy oversight p.858

doi: 10.1038/nbt0914-858

NEWS FEATURE:白日のもとへ

Stepping into the sunshine p.859

doi: 10.1038/nbt.3008

News & Views

接ぎ木による新種の植物

New plant species through grafting p.887

doi: 10.1038/nbt.3010

Perspectives

RNA精製によるドメイン特異的なクロマチン分離を利用する長鎖非コードRNAの構造および機能の解明

Revealing long noncoding RNA architecture and functions using domain-specific chromatin isolation by RNA purification p.933

doi: 10.1038/nbt.2943

複合的な遺伝子損傷を有する骨髄悪性腫瘍マウスモデルのCRISPR-Cas9ゲノム編集による作製

Generation of mouse models of myeloid malignancy with combinatorial genetic lesions using CRISPR-Cas9 genome editing p.941

doi: 10.1038/nbt.2951

六倍体パンコムギの3種類の同祖対立遺伝子の同時編集でウドンコ病への遺伝的抵抗性が付与される

Simultaneous editing of three homoeoalleles in hexaploid bread wheat confers heritable resistance to powdery mildew p.947

doi: 10.1038/nbt.2969

Computational Biology

大規模RNA塩基配列解読データの系統的なばらつきの検出および補正

Detecting and correcting systematic variation in large-scale RNA sequencing data p.888

doi: 10.1038/nbt.3000

Opinion and Comment

科学的厳密さとオートバイ修理技術

Scientific rigor and the art of motorcycle maintenance p.871

doi: 10.1038/nbt.3004

「Journal home」へ戻る

プライバシーマーク制度