【発生生物学】妊娠初期の胎盤内細胞のアトラス
Nature
2018年11月15日
Developmental biology: Mapping the placenta in early pregnancy
妊娠初期の胎盤から採取した約7万個の細胞のアトラスが作製され、ヒトの妊娠の初期段階における細胞の構成と細胞間連絡に関する新たな知見がもたらされたことを報告する論文が、今週掲載される。この知見は、妊娠の成功にとって極めて重要な生理学的に安定した環境を維持するための機構を調べる上で役立つ。
ヒトの妊娠初期において、胎児の胎盤は子宮内膜(脱落膜)に定着し、胎盤の栄養芽細胞が母親の細胞と混ざり合う。この関係は、妊娠の成功にとって非常に重要だが、妊娠初期の脱落膜における細胞間相互作用についての解明は進んでいない。Human Cell Atlasなどの国際的な研究イニシアチブでは、発生、健康、および疾患に関係する細胞型を特定するための研究が行われている。
こうした研究の一環として、Sarah Teichmannたちの研究グループは、妊娠初期(6~14週)の胎盤から採取した細胞と、それに対応する母親の血液および脱落膜細胞、計約7万の単一細胞のトランスクリプトーム(遺伝子発現を制御するRNA分子の総体)のプロファイリングを行った。Teichmannたちは、胎盤と脱落膜の境界面における胎児の細胞と母親の細胞の間の分子相互作用を調べ、これらのデータを用いて、特定の細胞間相互作用を予測するための新しい統計ツール(CellPhone)を開発した。その結果、それぞれの細胞サブセットに特化した機能があることが明らかになり、母親の免疫応答による損傷を最小限に抑えるのに役立つ可能性のある調節性相互作用が同定された。さらに、脱落膜のナチュラルキラー細胞(dNK細胞)の主要な3つのサブセットが同定された。Teichmannたちは、妊娠初期に、これらのサブセットの1つであるdNK1細胞と特定の胎盤細胞が接触することで、dNK1細胞がプライミングされて、妊娠後期における胎盤の定着に対してより効果的に応答できるようになるという考えを示している。
今回の知見は、妊娠初期を解明するために不可欠な情報資源であり、妊娠関連疾患の診断と治療を改善する上で重要な意味を持つ可能性がある。
doi: 10.1038/s41586-018-0698-6
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