免疫学:SARSから回復した患者に由来する抗体によるSARS-CoV-2の阻害
Nature
2020年5月19日
Immunology: Antibody from a patient recovered from SARS inhibits SARS-CoV-2
SARS(重症急性呼吸器症候群)から回復した患者から単離された抗体が、SARS-CoV-2の感染性を効果的に阻害することを明らかにした論文が、Nature に掲載される。ウイルスを中和できる抗体は、抗ウイルス療法やワクチンの開発に役立つ可能性がある。
異物が体内に侵入すると、それに応答して免疫系によって抗体が産生される。モノクローナル抗体は、病原体の特定の1つのタンパク質(抗原)を標的とすることができる。SARS-CoV-2とSARS関連コロナウイルスには、ヒト細胞への侵入を助けるスパイクタンパク質があり、このタンパク質に結合するモノクローナル抗体を特定することは、SARS-CoV-2感染症の治療や予防のための研究に役立つ可能性がある。
Davide Cortiたちの研究チームは2003年に、SARSから回復した患者に由来するモノクローナル抗体がヒト由来と動物由来の両方のSARS関連コロナウイルスを阻害できることを明らかにしていた。今回、Cortiたちは、これらのモノクローナル抗体のうちの25種について、SARS-CoV-2を阻害する特性(交差反応性)を評価し、遊離ウイルスと感染細胞の双方に結合できる8種の抗体を見つけ出した。そして、これらの抗体候補の1つ(S309)が、SARS-CoV-2に対して特に強い中和活性を有することが示された。そしてCortiたちは、S309の結晶構造を解明して、S309がウイルスのスパイクタンパク質にどのように結合するかを実証した。またCortiたちは、S309が、それほど強力でない(スパイクタンパク質の異なる部位と結合する)別の抗体と協働して作用することも明らかにした。Cortiたちは、この相乗作用によって、中和を増強しつつ、ウイルスの耐性変異が生じる可能性を小さくできると考えている。
今回の概念実証研究によって得られた知見は、SARS-CoV-2制御のためにモノクローナル抗体のカクテルを探索することが有意義である可能性を示唆している。ただし、今回の研究では、被験者による実験は行われていない。
doi: 10.1038/s41586-020-2349-y
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