医学:インフルエンザ感染に伴う肺損傷の予防薬候補がマウスの試験で好結果
Nature
2024年4月11日
Medicine: Preventing lung injury associated with influenza in mice
マウスを使った試験で、ある新薬候補が、A型インフルエンザ感染に伴う肺損傷を減らし、生存率を改善することが明らかになった。このことを報告する論文が、Natureに掲載される。この薬物は、広範囲の炎症性疾患に有益な可能性があり、炎症性疾患に関連する経路を洞察するための新たな手掛かりとなる。
世界中で年間最大65万人が、A型インフルエンザが原因で亡くなっている。A型インフルエンザの重症例では、過剰炎症、肺損傷、急性呼吸窮迫症候群を併発する場合がある。A型インフルエンザに対する防御機構は、インフルエンザウイルス粒子の存在によってアポトーシスと呼ばれる過程が活性化し、これによって意図的に特定の細胞が除去されて、ウイルスの拡散が抑制されるというものだ。この防御機構は、RIPK3という酵素の活性化によって開始する。ところが、RIPK3は、インフルエンザ感染時に、上述した経路と密接に関連する別の経路を活性化して制御不能な細胞死(ネクロトーシス)を引き起こすことがあり、インフルエンザによって引き起こされる炎症を悪化させ、致死性を高める可能性がある。RIPK3阻害剤は頻繁に創薬標的とされてきたが、一方の経路を阻害し、他方の経路を阻害しない安定な新薬候補は特定されていない。
今回、Siddharth Balachandranらは、複数の細胞株においてアポトーシスシグナル伝達経路に悪影響を及ぼさずにネクロトーシスを阻止できる強力なRIPK3阻害剤「UH15-38」を開発した。マウスを使った試験では、病気による体重減少を抑制し、遅延させることができる理想的な用量が判明し、これらのマウスは感染後3週間までに完全に回復した。また、UH15‐38を投与されたマウスは、炎症マーカーが減少し、ネクロトーシスを起こした肺細胞も減少することが明らかになり、この経路の選択的遮断がインフルエンザ感染に伴う過剰炎症と肺損傷の予防に有益なことが示された。特に、UH15‐38は感染後5日までの投与が効果的であることが明らかになり、この炎症を阻止するプラスの効果がウイルス複製のピーク時にも及んでいたことが示唆された。
以上の結果は、マウスにおいて、UH15‐38がインフルエンザ感染に伴う重度の炎症と重症性疾患に対して相当な防御効果をもたらす可能性を示している。さらに、UH15‐38は(ネクロトーシスの進行に必須の)RIPK3の選択的阻害に成功していることから、広範囲の炎症性疾患に有用な薬剤となる可能性も示唆された。
doi: 10.1038/s41586-024-07265-8
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