注目の論文

生物学:全ヒト細胞アトラスの作成

Nature

2024年11月21日

Biology: Creating atlases of all human cells

ヒト細胞アトラス(HCA:Human Cell Atlas)イニシアティブによる人体の細胞の初期ドラフトマップを報告する一連の論文のコレクションが、ネイチャーポートフォリオのジャーナルに掲載される。この研究では、人工知能や機械学習に基づくものも含む新しいデータや分析ツールを活用し、細胞レベルでの人間の健康と病気の理解を促進する。

人間の体は約37.2兆個の細胞で構成されており、それぞれの細胞には独自の機能がある。細胞レベルでの人体の複雑性を理解することは困難ではあるが、医学の進歩には不可欠である。HCAコンソーシアムは、人体のあらゆる細胞タイプの生物学的アトラスを構築することを目的として2016年に設立された。このコンソーシアムは102か国にわたって3,600人以上のメンバーで構成されており、18の生物学的ネットワークに関連するデータを寄与している。

最新のコレクションでは、コンソーシアムにおける3つの主要分野における最近の知見が明らかにされている。1つ目に、ヒトの発生組織から新たなデータが生成されている。例えば、Sarah TeichmannとKen Toらは、頭蓋骨や股関節、膝、および肩の関節に関する新たなデータを提供している。2つ目に、コンソーシアムは、発現プロファイルに基づいて類似した細胞を検索する機械学習に基づく手法を含む分析ツールを開発している。3つ目に、特定の器官や生物学的システムで利用可能なデータの統合分析がコレクションの特徴となっている。例えば、Amanda Oliverらの研究チームは、口腔の組織から食道、胃、腸、および結腸にわたる消化管アトラスを発表しており、クローン病(Crohn's Disease)などの炎症性疾患を持つ個人のデータも含まれている。さらに、Barbara Treutleinらの研究チームが開発した統合された脳オルガノイド細胞アトラスは、オルガノイドが発達中の脳の側面をどの程度捉えているかについての洞察を提供している。

これらの発見は、最初のHCA細胞ドラフトマップの構築における重要な進歩であり、将来的に多くの影響をもたらす可能性がある。例えば、細胞の多様性が医療治療に対する個々の反応にどのように影響するかを理解するのに役立ち、細胞レベルでの疾患の遺伝的基礎の調査にも役立つ。このマップから得られた洞察は、Aviv RegevらによるPerspective(展望)記事で議論されている。

細胞の動的な性質を完全に把握し、これらの洞察を多様な集団にまで拡大するにはまだ課題が残っているが、世界中の科学者による現在進行中の共同研究は、個別化医療の実現をより現実的なものとし、病気の治療能力の向上につながるだろう。

論文コレクション:The Human Cell Atlas: towards a first draft atlas

To, K., Fei, L., Pett, J.P. et al. A multi-omic atlas of human embryonic skeletal development. Nature 635, 657–667 (2024). https://doi.org/10.1038/s41586-024-08189-z

Oliver, A.J., Huang, N., Bartolome-Casado, R. et al. Single-cell integration reveals metaplasia in inflammatory gut diseases. Nature 635, 699–707 (2024). https://doi.org/10.1038/s41586-024-07571-1

  • Perspective
  • Published: 20 November 2024

Rood, J.E., Wynne, S., Robson, L. et al. The Human Cell Atlas from a cell census to a unified foundation model. Nature (2024). https://doi.org/10.1038/s41586-024-08338-4

 

doi: 10.1038/s41586-024-08189-z

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