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気候:熱帯低気圧の頻発化は海鳥類個体群に致命的な結果をもたらす

Communications Earth & Environment

2024年6月7日

Climate: Increasing tropical cyclone frequency may have deadly consequences for seabird populations

気候変動を原因とする熱帯低気圧の頻度と強度の増加が、海鳥の個体数の急激な減少につながる可能性があることを示唆する論文が、Communications Earth & Environmentに掲載される。著者らが示した結論は、2023年4月にベッドアウト島を襲ったサイクロン「イルサ」による被害に基づいている。この時、ベッドアウト島で営巣していた海鳥の少なくとも80%が死んだ。

気候変動は、熱帯低気圧などの極端な気象事象の発生頻度と強度を高めている。サイクロンは、その一つ一つが、海鳥類などの野生生物の個体群に重大な影響を及ぼすことがある。サイクロンが海鳥類に直接影響を及ぼす経路はさまざまで、例えば、大量死事象を引き起こすこと、営巣パターンや繁殖パターンをかく乱すること、渡り戦略を変えさせることなどがある。サイクロンの頻発化は、さまざまな生物に悪影響を及ぼすことが既に知られているが、海鳥類の個体群に対する影響は明らかになっていない。

今回、Jennifer Laversらは、2023年4月13日にカテゴリー5の熱帯低気圧であるサイクロン「イルサ」が、西オーストラリア州のベッドアウト島(陸地面積17ヘクタール)を通過した後、この島に繁殖していた数種の海鳥類の個体群が受けた影響を調べた。Laversらは、2023年4月17日~7月21日に実施された航空観測と地上調査の結果を用いて、カツオドリ(Sula leucogaster)、コグンカンドリ(Fregata ariel)、アオツラカツオドリの固有亜種(Sula dactylatra bedouti)という3種の海鳥類の死亡率を試算した。その結果、これらの海鳥種の個体数の80~90%(少なくとも2万羽)がイルサの襲来中に死亡し、その大部分が繁殖期の成体だったと推定された。

Laversらは、多くの海鳥が長命で、世代時間が長く、1年間に育てる雛の数が非常に少ないため、島嶼性海鳥の個体数減少がこのように高いレベルに達すると、サイクロンの頻発化と重なった場合に、個体群の持続可能性が失われるかもしれないと警告している。そのため、個体数が著しく減少すると、次の熱帯低気圧の襲来までに個体群が回復できなくなる可能性がある。また、海鳥類はグアノを介して海から陸に栄養物を輸送しているため、こうした個体数の減少は、島の生態系にも直接的な影響を及ぼし得る。そのため、Laversらは、サイクロンが発生しやすい地域にある海鳥のコロニーを注意深く監視して、島やサンゴ礁の生態系に長期的な被害が生じないようにすることが必要だと強調している。

doi: 10.1038/s43247-024-01342-6

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