Press release

【Springboard】日本の感染症研究が少ないことが、COVID-19のパンデミックによって露呈

2023年1月10日

Digital Scienceのブログ(Simon Linacre、David Ellisおよび David Swinbanks作成)の日本語訳です。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以降も含め過去数年間にわたり、日本の感染症研究に遅れが生じていることを示す最近の分析結果が発表され、国内の研究者の一部から、日本政府に対して批判の声が上がっています。

 リサーチテクノロジー企業であるDigital Scienceの分析によると、日本はCOVID-19のパンデミックの抑制に関しては比較的良い成果を挙げているにもかかわらず、感染症分野における研究では優位性を失っていることが明らかになりました。

 COVID-19の感染拡大抑制策に関して政府と協力してきた研究者を含む多くの日本の感染症研究者が、今回のデータによって、研究者間では周知の事実であったことが裏付けられたと述べています。 

Dimensionsデータベースに収録されている1億3000万件の出版物とジャーナルに基づくNature Indexデータによれば、日本はあらゆる研究分野において国際的に強い立場にあるにもかかわらず(2019~2021年にDimensionsに登録された全ての研究論文においては世界第5位)、感染症に関しては大きく出遅れています(2019~2021年にDimensionsににおける全ての感染症研究論文においては世界第12位)。

 中国、英国、ドイツでは、Nature Indexに収載されているジャーナルに出版された感染症の異なる全90分野の研究論文数が増加している(Dimensionsデータに基づく調査による)、一方、日本はスイスやオランダなどの国々にも遅れを取っています。また米国をはじめとする他の主要先進国ではコロナウイルス関連研究が大幅に急増していますが、この点においても日本は足並みを揃えるには至っていません。

 ワクチンに関して取得した特許件数についても、日本は遅れを取っています。Dimensionsのデータによれば、2020~2021年に登録されたCOVID-19関連の特許に関する日本の順位は世界第11位であり、韓国、インド、カナダおよびフランスに先んじられています。

 詳しい図やチャートについては、ブログの全文をご参照ください。

日本の国立研究開発法人国立国際医療研究センター(NCGM)の国際感染症センター長兼 the WHO Collaborating Centre for Prevention, Preparedness  and Response to Emerging Infectious Diseasesの長を務める、大曲貴夫博士は次のように述べています:
「これらのデータが日本の感染症研究の遅れを明らかにしていることは驚きではなかった。日本の医学研究では、感染症に関心が示されたことはほとんどありません」さらに続けます。「私が感染症専門医となってから18年になります。しかしその間、感染症研究はずっと低迷していました。新薬の開発に向けた取り組みも徐々に活力を失っていきました」

日本の研究大学病院のひとつである慶應義塾大学 の医学部長である、末松誠 教授は、日本の研究における関心の序列について「がんが王であり、ゲノムが女王です。感染症は単なる病原菌にすぎません」と表しています。 末松教授によれば、日本では人口の高齢化が深刻な状況であり、その方向性に沿って予算が増額されてきたと説明し、「膨大な額となっている高齢者向けの予算額の大きさをスイカに喩えれば、感染症研究のための予算は一粒の種にすぎません」と述べています。

株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 の代表取締役社長であり所長、また沖縄科学技術大学院大学(OIST)の教授でもある、北野宏明教授は一流の研究者として、日本におけるCOVID-19の感染拡大防止に積極的に取り組んできたひとりですが、次のとおり述べています:

「私たちはこれまで、有効なワクチンの開発に失敗してきました。かつて日本はワクチン接種の最先端を行く国でした。ワクチン接種プログラムは非常に充実しており、多様なワクチンの創成能力を有する数多くの非常に強い製薬会社がありました。しかし、多くの企業がワクチン事業から実質的に撤退したことから、ワクチンを生産し、迅速に対応する能力が大幅に低下してしまいました」

LHS研究所 (LHSI : Learning Health Society Institute)の代表理事であり京都大学名誉教授である、福島雅典教授は、別の問題を指摘しています。すなわち、今回のパンデミックにより、日本の研究者は患者への影響に関する理解を深めることができたかもしれないにもかかわらず、研究を行っている病院の患者にアクセスすることができず、大規模に調べることができなかったのです。

福島教授は「大学病院に入院する患者は、別の病院から紹介を受けた重症患者であり、その多くは救急患者です。そのため、大学病院では患者に関する継続的な研究を実施するシステムを確立することが困難なのです」と述べています。

パンデミックに対する日本の対応を評価する研究者のコメントを含む全文は、ブログの全文をご参照ください。

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