【遺伝】母系世襲による権力継承が行われていた初期の複雑な社会
Nature Communications
2017年2月22日
Genetics: Early complex society passed power down the maternal line
先史時代に現在の米国ニューメキシコ州にあたる地域に存在していた複雑な社会に関するゲノム解析が行われ、エリートの地位が母系で継承されていたことが示唆されている。今回の研究では、DNAから古い時代の家族的階層関係が推定され、指導者の地位の世襲の文化的起源を解明する上で1つの手掛かりが得られた。この成果を報告する論文が、今週掲載される。
北米における最初期の複雑な社会の1つである「チャコ」社会の人々は、米国南西部のチャコ渓谷にあった2階以上の巨大な石造建造物(「グレートハウス」)で暮らしていた。最大のグレートハウスはプエブロ・ボニートにあり、約650の部屋があった。今回、Douglas Kennettの研究チームは、このグレートハウスの33号室に埋葬されていた9人の遺骸からDNAを採取した。33号室は、チャコ社会で地位の高い者とその直系の子孫のための精巧な地下埋葬場だと考えられている。また、DNA解析の結果、埋葬されていた個体のミトコンドリアゲノムが同じであることが判明した。これは、埋葬者全員が同じ母方の家系に属することの徴候だ。これらの埋葬者は、数世代にわたっており、330年間に順番に埋葬されていた。以上の知見を総合すると、チャコ社会では、9世紀前半には高度の社会的分化と社会的複雑度が存在したことが示されている。また、チャコ社会では、1130年頃に社会が崩壊するまで指導者の地位が母系で継承されていた。
権力の世襲は、書記体系をもつ古代社会(エジプト、古代マヤなど)における初期の政治的複雑性と統治の1つの特徴だが、その文化的起源については、チャコのような先史時代の複雑な社会に書記体系がなかったため、解明が難しくなっている。チャコ社会に権力の上下関係があったと考えられることは認められているが、この階層構造の性質については論争があり、今回の研究は、この論争に決着をつける上で役立つと考えられる。
doi: 10.1038/ncomms14115
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