ウイルス学:ヒト化マウスのSARS-CoV-2感染を治療し予防する薬剤
Nature
2021年2月9日
Virology: Drug treats and prevents SARS-CoV-2 infection in humanized mice
ヒトの肺組織を移植した免疫不全マウスに抗ウイルス薬EIDD-2801を経口投与すると、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の複製が阻害されて、感染を防ぐことができると報告する論文が、Nature に掲載される。今回の研究では、2種類のSARS様コウモリコロナウイルスがヒト化マウスモデル体内で複製する能力を有していることも明らかになり、コウモリが、ヒトに直接伝播するコロナウイルスを保有している可能性が示唆された。
今回、Victor Garciaらは、ヒト肺組織を移植して作製したマウスモデルを用いて、その体内で重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群(MERS-CoV)とSARS-CoV-2が複製できることを実証した。また、Garciaたちは、2種類のSARS様コウモリコロナウイルス(WIV1-CoVとSHC014-CoV)が、事前の適応なしにヒト肺組織内で複製できることも明らかにした。この知見は、コウモリが、ヒトに直接伝播するコロナウイルスを保有しており、中間宿主でのさらなる適応を必要としないことを示唆するものと考えられる。
さらに、Garciaたちは、マウスを使って、広域スペクトルの抗ウイルス薬であるEIDD-2801の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬としての薬効を評価した。SARS-CoV-2曝露の24時間後と48時間後にEIDD-2801を投与したところ、マウスが保有する感染性ウイルス粒子数が著しく減少した。そして、EIDD-2801を曝露24時間後に投与されたマウスの方が、48時間後に投与されたマウスよりウイルス量の減少幅が大きかった。また、EIDD-2801をSARS-CoV-2曝露の12時間前に投与する実験において、EIDD-2801に感染予防効果が認められた。
Garciaたちは、EIDD-2801が、臨床現場での投与を必要とするSARS-CoV-2感染症の現行治療法(レムデシビル、回復期血漿、モノクローナル抗体など)と比較して、経口投与が可能で、より広範に使用できる可能性を指摘している。EIDD-2801については、COVID-19治療薬候補として第II相臨床試験と第II/III相臨床試験が実施されており、今回の研究で得られた知見は、EIDD-2801の開発を後押しするものといえる。
doi: 10.1038/s41586-021-03312-w
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