ウイルス学:SARS-CoV-2関連コロナウイルスが東南アジアに生息するコウモリとセンザンコウから見つかった
Nature Communications
2021年2月9日
Virology: SARS-CoV-2-related coronaviruses found in bats and pangolins in Southeast Asia
タイ東部の野生生物保護区に生息するコウモリから重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)関連コロナウイルスが検出された。このコウモリとタイ南部の野生動物検問所で得られたセンザンコウは、SARS-CoV-2を中和する抗体を保有していることが分かった。以上の知見は、コウモリとセンザンコウに由来するSARS-CoV-2関連コロナウイルスの存在を確認できる地理的領域を拡大する。こうした結果について報告する論文が、Nature Communications に掲載される。
SARS-CoV-2の起源と中間動物宿主の役割は、まだ完全に解明されていない。これまでにSARS-CoV-2にごく近縁なコウモリ由来コロナウイルス(特にSARS-CoV-2ゲノムとの塩基配列一致率が96%のRaTG13と93.6%のRmYN02)が中国で発見されており、SARS-CoV-2が動物から出現したことが示唆されていた。SARS-CoV-2関連コロナウイルスは、日本のコウモリと中国のセンザンコウから採取した試料でも検出されたことが報告されているが、直近の前駆ウイルスと中間動物宿主は、いまだに明らかになっていない。
今回、Lin-Fa Wangたちが実施したコロナウイルスのサーベイランス調査で、タイ東部の野生生物保護区の人工洞窟から採取した5匹のトガリキクガシラコウモリ(Rhinolophus acuminatus)がSARS-CoV-2にごく近縁なコロナウイルスを保有することが明らかになった。この分離されたウイルスは、RacCS203と命名され、SARS-CoV-2とのゲノム類似性が91.5%で、RmYN02にもごく近縁だった。また、スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)の配列解析とACE2との結合実験を行った結果、RacCS203がヒトACE2受容体を用いて宿主の細胞に侵入できないことが示唆された。そして、同じコロニーに属する複数のコウモリとタイ南部の野生動物検問所で得たセンザンコウからSARS-CoV-2中和抗体が検出され、東南アジアでSARS-CoV-2関連コロナウイルスが流行していることを示す証拠が得られた。
今回の調査のサンプルサイズが小さく、対象地域も限定されているものの、Wangたちは、多くの国と地域に生息するコウモリがSARS-CoV-2関連コロナウイルスを保有している可能性があると予測している。今回の知見はSARS-CoV-2の起源を特定するものではないが、SARS-CoV-2に近縁なウイルスが検出された地域が、約4800 kmの範囲に拡大した。
doi: 10.1038/s41467-021-21240-1
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